性周期のホルモンと胎子―HPG軸・胎子膜・胎子循環

発情周期は視床下部−下垂体−性腺(HPG)軸のホルモンで動く。視床下部のGnRHが下垂体前葉からFSH・LHを出させ、FSHで卵胞が育ちエストロゲンを分泌、LHサージで排卵が起こり、排卵後の黄体がプロゲステロンを出す。発情休止期(黄体期)はプロゲステロンが高く、子宮蓄膿症が起こりやすい。あわせて胎子を包む胎子膜(羊膜・絨毛膜・尿膜・卵黄嚢)と、胎盤でガス交換する胎子循環の3つの短絡(静脈管・卵円孔・動脈管)と臍帯の血管(臍静脈・臍動脈)を学ぶ。

1性周期を動かすホルモンの流れ(HPG軸)

発情周期は『視床下部→下垂体前葉→卵巣(性腺)』の3階層で調節される(HPG軸)。①視床下部がGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)を出す→②下垂体前葉がFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)を出す→③卵巣がエストロゲン・プロゲステロンを出す。卵巣ホルモンは上位にフィードバックして全体を調整する。

発情周期を動かすHPG軸。視床下部のGnRHが下垂体前葉のFSH・LHを促し、卵巣がエストロゲン・プロゲステロンを分泌、その卵巣ホルモンが視床下部・下垂体へフィードバックして分泌量とタイミングを調整する。

発情周期は、脳と卵巣がホルモンでやりとりする『視床下部−下垂体−性腺(性腺=卵巣)軸(HPG軸)』によって調節される。

【①視床下部】まず脳の視床下部が『GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)』を分泌する。

これがすべての出発点となる司令である。

【②下垂体前葉】GnRHの刺激を受けた下垂体前葉が、2種類の性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)を分泌する。

卵胞を育てる『FSH(卵胞刺激ホルモン)』と、排卵と黄体形成を促す『LH(黄体形成ホルモン)』である。

【③卵巣(性腺)】FSHで育った卵胞が『エストロゲン(卵胞ホルモン)』を分泌し、排卵後にできる黄体が『プロゲステロン(黄体ホルモン)』を分泌する。

これらの卵巣ホルモンは、視床下部・下垂体前葉に対してフィードバック(負・正の両方)をかけ、ホルモン分泌の量とタイミングを調整する。

この『GnRH→FSH/LH→エストロゲン/プロゲステロン』という流れが、発情周期の各時期をつくり出している。

2発情前期と発情期のホルモン(FSH→エストロゲン→LHサージ→排卵)

発情前期はFSHで卵胞が発育し、卵胞からのエストロゲンが上昇する。外陰部の腫れ・発情出血がみられ、頻繁な排尿(マーキング)でオスを引き寄せる(イヌで約3〜27日、平均5〜10日)。発情期はエストロゲンがピークに達し、それが引き金となってLHが急増(LHサージ)して排卵が起こる。

【発情前期(プロエストラス)】下垂体前葉のFSHにより卵巣で卵胞が発育し、卵胞からのエストロゲンが分泌されて上昇していく時期。

エストロゲンの作用で外陰部が腫れ、発情出血がみられ、尿からオスを引き寄せるにおいが出て、頻繁な排尿(マーキング)がみられるようになる。

ただしこの時期はまだ交尾を受け入れない。

イヌではおよそ3〜27日(平均5〜10日)続く。

【発情期(エストラス)】エストロゲンの分泌がピークに達する時期。

高くなったエストロゲンが引き金(正のフィードバック)となって、下垂体前葉からLHが一気に大量に放出される。

これを『LHサージ』という。

このLHサージによって、成熟した卵胞が破れて卵子が放出される『排卵』が起こる。

発情期はメスが交尾を受け入れる時期で、排卵の前後が交配の適期にあたる。

まとめると、発情前期=FSHで卵胞発育・エストロゲン上昇、発情期=エストロゲンがピーク→LHサージ→排卵、という流れになる。

3発情休止期(黄体期)のホルモンと子宮蓄膿症

排卵後の卵胞は黄体に変わり、発情休止期(ディエストラス=黄体期)にはプロゲステロン(黄体ホルモン)が高くなる。プロゲステロンは子宮内膜を分泌性に厚くし子宮頸管を閉じる一方で子宮の局所防御を弱めるため、この時期(発情出血後およそ2か月)は妊娠が成立する時期であると同時に子宮蓄膿症が起こりやすい。

排卵が終わると、卵子を放出した後の卵胞は『黄体(おうたい)』という組織に変わり、ここから『プロゲステロン(黄体ホルモン)』が分泌される。

プロゲステロンが高くなる時期が『発情休止期(ディエストラス=黄体期)』で、イヌでは妊娠していなくても黄体が約2か月機能してプロゲステロンを出し続ける。

プロゲステロンの働き:①子宮内膜を分泌性に増殖・肥厚させて受精卵が育つ準備をする ②子宮筋の収縮を抑える ③子宮頸管を閉じる。

これらは妊娠の維持に役立つ。

一方で、プロゲステロンが高い環境では子宮の局所的な防御力(白血球反応など)が低下し、閉じた子宮内で細菌が増えやすくなる。

そのため発情休止期、とくに発情出血後およそ2か月ごろは、妊娠が成立しやすい時期であると同時に『子宮蓄膿症(pyometra)』が起こりやすい時期でもある。

子宮蓄膿症は子宮内に膿がたまる命に関わる疾患で、避妊手術(卵巣子宮摘出)で予防できる。

4胎子膜(羊膜・絨毛膜・尿膜・卵黄嚢)

胎子は4種類の胎子膜に包まれて育つ。①羊膜=胎子を直接包み羊水で満たし保護する ②絨毛膜(漿膜)=最も外側の膜で、子宮内膜と接して胎盤をつくる ③尿膜=胎子の老廃物(尿)をためる袋で、血管を含み絨毛膜と合わさって胎盤の血管供給を担う ④卵黄嚢=発生初期に栄養を供給する。

胎子は子宮の中で、いくつかの膜(胎子膜・胎膜)に包まれて発育する。

代表的な4つを押さえる。

【羊膜(ようまく)】胎子をいちばん内側で直接包む膜。

中は羊水で満たされ、胎子を衝撃や乾燥から守り、運動の場を与える。

【絨毛膜(じゅうもうまく)/漿膜】いちばん外側の膜で、子宮内膜と接する面に絨毛をつくり、母体側と結びついて『胎盤』を形成する。

母子間の物質交換の最前線になる。

【尿膜(にょうまく)】胎子の膀胱から続く袋で、胎子の老廃物(尿)をためる。

血管が豊富で、絨毛膜と合わさって『尿膜絨毛膜』となり、胎盤への血管供給を担う。

【卵黄嚢(らんおうのう)】発生のごく初期に胎子へ栄養を供給する袋で、その後は退縮していく。

これらの胎子膜は、胎盤とともに胎子の保護・栄養・ガス交換・老廃物処理を支えている。

5胎子循環の特殊な通り道(臍帯と3つの短絡)

胎子は肺ではなく胎盤でガス交換する。酸素豊富な血液は臍静脈で胎盤→胎子へ運ばれ、①静脈管(アランチウス管)で肝臓を迂回し下大静脈へ→②卵円孔で右心房から左心房へ抜け→③動脈管(ボタロー管)で肺動脈から大動脈へ抜ける。全身を巡った血液は臍動脈で胎盤へ戻る。

胎子の肺はまだ働いていないため、ガス交換(酸素の受け取りと二酸化炭素の受け渡し)は『胎盤』で行われる。

そのため胎子の血液の通り道は、生まれた後とは異なる特別なつくりになっている。

【臍静脈(さいじょうみゃく)】胎盤で酸素を受け取った『酸素に富む血液』を、胎盤から胎子の体内(肝臓の方向)へ運ぶ血管。

【①静脈管(じょうみゃくかん/アランチウス管)】臍静脈の血液の大部分を、肝臓を通さずに(迂回して)下大静脈へ直接流すための短絡(バイパス)。

【②卵円孔(らんえんこう)】下大静脈から右心房に戻った酸素に富む血液の多くを、右心房から左心房へ直接通すための心房中隔の穴。

肺を通さずに左心系へ送る。

【③動脈管(どうみゃくかん/ボタロー管)】右心室から肺動脈へ出た血液の大部分を、機能していない肺を迂回して大動脈へ流すための短絡。

【臍動脈(さいどうみゃく)】全身を巡って酸素を使い終えた血液を、胎子から胎盤へ戻す血管(左右1対、内腸骨動脈の枝)。

ここで再び胎盤でガス交換される。

つまり胎子循環は『臍静脈→静脈管→(下大静脈→右心房)→卵円孔→左心系→全身/一部は動脈管→大動脈→臍動脈→胎盤』という流れで、肝臓と肺を上手に迂回している。

6出生後の循環の変化(短絡の閉鎖)

出生して肺呼吸が始まると、胎盤を介した循環が不要になり、3つの短絡と臍帯の血管が閉じる。卵円孔→卵円窩、動脈管→動脈管索、静脈管→静脈管索、臍静脈→肝円索、臍動脈→(索状物)へと変化する。これらが閉じ残ると先天性疾患(動脈管開存症など)になる。

出生して産声とともに肺がふくらみ肺呼吸が始まると、ガス交換の場が胎盤から肺へ移る。

胎盤を介した循環が不要になるため、胎子循環の特殊な通り道は順に閉じていく。

【卵円孔】左心房の圧が上がることで弁が押しつけられて閉じ、痕跡として『卵円窩(らんえんか)』が残る。

【動脈管(ボタロー管)】収縮して閉じ、『動脈管索』という索状の組織になる。

【静脈管(アランチウス管)】閉じて『静脈管索』になる。

【臍静脈】閉じて肝臓につながる『肝円索(かんえんさく)』になる。

臍動脈も閉じて索状物になる。

これらの短絡が生後も閉じずに残ってしまうと、先天性の循環器疾患になる。

代表例が、動脈管が閉じずに残る『動脈管開存症(PDA)』や、卵円孔・心房中隔が閉じない『心房中隔欠損症』である。

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