細胞・組織の適応(萎縮・肥大・過形成・化生)と変性

細胞や組織は、ストレスや環境の変化に応じて大きさや性質を変えて適応する。小さくなる萎縮、細胞が大きくなる肥大、数が増える過形成、別の種類の細胞に置き換わる化生がその代表。あわせて、細胞内に異常が生じる『変性』と、不可逆的な『細胞死(壊死・アポトーシス)』との違いを整理する。

1細胞・組織の適応とは

細胞・組織は、ストレス(負荷の増減・刺激・環境変化)に応じて、大きさや数・性質を変えて対応する。これを適応という。代表的な適応反応が、萎縮(小さくなる)・肥大(細胞が大きくなる)・過形成(数が増える)・化生(別の種類に置き換わる)の4つ。

細胞・組織の適応4種。萎縮=小さくなる、肥大=細胞1個が大きくなる(数は増えない)、過形成=細胞の数が増える、化生=別の種類の細胞に置き換わる。下段は区別の整理:適応(多くは可逆)と変性(細胞内に異常物質が蓄積など・多くは可逆)、そして不可逆の細胞死(壊死・アポトーシス)。

体の細胞や組織は、いつも同じ状態でいるのではなく、おかれた状況(ストレスや負荷、刺激、ホルモンや栄養の状態など)に応じて、自分の大きさ・数・性質を変えて対応している。

これを『適応』という。

適応は、生体が恒常性(バランス)を保とうとする正常な応答の一面であり、多くは刺激がなくなればもとに戻りうる(可逆的な)変化である。

代表的な適応反応は次の4つである。

萎縮(いったん発達した細胞・組織が小さくなる)、肥大(細胞自体が大きくなって組織が大きくなる)、過形成(細胞の数が増えて組織が大きくなる)、化生(ある分化した細胞・組織が、別の種類の細胞・組織に置き換わる)。

これらは、負荷が増えれば肥大・過形成で対応し、使われなくなれば萎縮する、といったように、刺激の向きに応じて起こる。

まずはこの4つの言葉と意味をしっかり区別することが、病理の基本になる。

2萎縮とその分類

萎縮は、いったん正常な大きさに発達した細胞・組織・臓器が縮小すること。加齢などによる生理的萎縮と、病気・原因による病的萎縮がある。病的萎縮には、廃用性(不使用性)・栄養障害性・神経性・圧迫性・内分泌性などがある。

萎縮とは、いったん正常な大きさにまで発達した細胞・組織・臓器が、あとから小さく縮むことをいう(はじめから小さい『低形成・無形成』とは区別する)。

萎縮は、原因によって大きく『生理的萎縮』と『病的萎縮』に分けられる。

生理的萎縮は、加齢など正常な過程で起こるもので、たとえば加齢に伴う臓器の縮みや、成長とともに役目を終えた組織(胸腺など)が小さくなる退縮などがある。

病的萎縮には、原因によっていくつかの種類がある。

廃用性萎縮(不使用性萎縮)は、使わないことで起こる萎縮で、骨折でギプス固定した手足の筋肉がやせるのが典型である(廃用性と不使用性は同じ意味)。

栄養障害性萎縮は、栄養の不足(飢餓など)で全身や臓器が縮むもの。

神経性萎縮は、運動神経などの障害で、その支配を受ける筋肉が萎縮するもの。

圧迫性萎縮は、腫瘍や水腎症などで持続的に圧迫されて起こる萎縮。

内分泌性萎縮は、ホルモンの低下(標的臓器への刺激の減少)で起こる萎縮である。

3肥大と過形成

肥大は、細胞自体が大きくなって、組織・臓器が大きくなること(細胞数は増えない)。過形成は、細胞の数が増えて組織・臓器が大きくなること。どちらも『大きくなる』が、『細胞が大きいか・数が多いか』が違う。両者は同時に起こることも多い。

負荷が増えたときの代表的な適応が、肥大と過形成である。

どちらも組織・臓器が大きくなる点は同じだが、しくみが異なる。

肥大(ひだい)は、個々の細胞自体が大きくなることで、その結果として組織・臓器が大きくなるものである。

細胞の数は増えない。

たとえば、運動で負荷がかかった骨格筋の筋肥大や、高血圧などで負担がかかった心臓の心肥大がこれにあたる。

過形成(かけいせい)は、細胞の数が増えることで、組織・臓器が大きくなるものである。

刺激に応じて細胞分裂が盛んになって数が増える、可逆的な反応である。

つまり、『肥大=細胞が大きくなる(数は同じ)』『過形成=細胞の数が増える』と区別する。

肥大には、よく使うことで起こる作業性(労作性)肥大のほかに、代償性肥大がある。

代償性肥大は、左右一対ある臓器の片方の機能が失われたとき、もう一方がその働きを代わりに担って大きくなるもので、片方の腎臓を摘出した後に残った腎臓が肥大するのが典型例である。

実際には、肥大と過形成が同時に起こって臓器が大きくなることも多い。

(なお、過形成は細胞の数が増える正常範囲の反応で、無秩序に増え続ける腫瘍とは区別される。

4化生

化生は、ある分化した細胞・組織が、別の種類の分化した細胞・組織に置き換わること。たとえば、慢性的な刺激(喫煙など)で、気道の線毛をもつ上皮が扁平上皮に置き換わるのが代表例。環境への適応だが、もとに戻りにくくなったり前がん的になったりすることもある。

化生(かせい)は、いったんある種類に分化した細胞・組織が、別の種類の分化した細胞・組織に置き換わる現象である。

これは、その場所が受けている刺激や環境に、より耐えられる細胞へと“作り変える”適応と考えられる。

代表例として、本来は線毛をもつ上皮でおおわれている気道(気管・気管支)が、慢性的な刺激(たばこの煙など)にさらされ続けると、より丈夫な扁平上皮に置き換わる『扁平上皮化生』がある。

化生は環境への適応の一面をもつが、その細胞本来の働き(たとえば線毛による異物の排出)が失われたり、刺激が続くと前がん的な変化(異形成)やがんへ進むきっかけになったりすることもある。

萎縮・肥大・過形成が『同じ種類のまま大きさや数が変わる』のに対し、化生は『細胞の種類そのものが入れかわる』点が大きな違いである。

5再生と組織ごとの再生力

再生は、欠損した組織を以前と同じ種類の組織で補うこと。もとどおりになる完全再生(表皮・粘膜・毛・爪など)と、瘢痕などで完全には戻らない不完全再生がある。再生力は組織で差があり、上皮・結合組織・骨・血管は強い、骨格筋・平滑筋は中等度、中枢神経の神経細胞と心筋はほとんど再生しない(永久細胞)。

再生とは、組織が何らかの原因で欠損したときに、以前と同じ種類の組織でその部分を補うことである。

もとどおりに完全に戻るものを完全再生といい、表皮・粘膜上皮・毛・爪などがあてはまる。

一方、欠損が大きいなどで完全には元に戻らず、結合組織(線維)で置き換わって瘢痕(はんこん)が残るようなものを不完全再生という。

再生する力は組織によって大きく異なる。

再生力が強いのは、表皮・粘膜などの上皮、結合組織、骨、血管などである。

骨格筋・平滑筋は中くらいの再生力をもつ。

一方、中枢神経の神経細胞(ニューロン)と心筋は、ほとんど再生しない『永久細胞』で、いったん失われると元に戻りにくい。

(末梢神経の線維は損傷してもある程度再生しうるが、中枢神経の神経細胞は再生しない、と区別して理解する。

神経が一律に再生力が強いわけではない点に注意。

6変性と細胞死(適応・退行・死の区別)

変性は、細胞内に正常では生じない異常が起こり、本来の物質が失われたり、異常な物質が出現・蓄積したりすること(多くは可逆的)。例:脂肪変性。これに対し、細胞死は不可逆的で、壊死(ネクローシス)とアポトーシスがある。萎縮・肥大・過形成・化生(適応)とは区別する。

細胞の変化には、適応(萎縮・肥大・過形成・化生)のほかに、傷害による『変性』と、最終的な『細胞死』がある。

変性とは、細胞に正常では起こらない異常が生じ、本来あるべき物質が失われたり、逆に異常な物質が細胞の中(や間質)に出現・蓄積したりする状態をいう。

多くは、原因が取り除かれればもとに戻りうる(可逆的な)変化である。

代表例に、肝細胞などに脂肪がたまる脂肪変性、細胞が水ぶくれのようになる水腫様変性、硝子(ガラス)様変性、アミロイド変性などがある。

これに対し、細胞死は、細胞が完全に死んでしまう不可逆的な変化で、大きく2つある。

壊死(ネクローシス)は、強い傷害によって細胞が破裂するように死ぬもので、周囲に炎症を起こす。

アポトーシスは、あらかじめ決められたしくみで細胞が静かに自ら死ぬもの(プログラムされた細胞死)で、ふつう強い炎症を伴わない。

整理すると、萎縮・肥大・過形成・化生は『適応(可逆的な応答)』、変性は『傷害による細胞内の異常(多くは可逆的)』、壊死・アポトーシスは『不可逆的な細胞死』である。

(『細胞死=壊死とアポトーシス』であり、萎縮や変性は細胞死そのものではない点に注意する。

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