手術時手洗いと滅菌手袋の装着

手術部位感染(SSI)を防ぐための無菌操作のうち、術者の手指と術野の準備に注目する。ポビドンヨードとクロルヘキシジンによる術野皮膚消毒の違い、手術時手洗いの3方式(スクラブ法・ラビング法・ツーステージ法)、滅菌手袋の装着法(オープン法・クローズド法)、そして清潔野を汚染しない無菌操作の基本原則を整理する。

1術野の皮膚消毒(ポビドンヨードとクロルヘキシジン)

手術部位(術野)の皮膚消毒には、ポビドンヨードとクロルヘキシジン(グルコン酸クロルヘキシジン)が代表的に使われる。どちらも皮膚・術野用の消毒薬で、芽胞には無効。中心から外側へ円を描くように消毒するのが原則。

術野の皮膚消毒は切開予定部位(中心)から外側へ円を描くように広げ、外側に触れた綿球は中心へ戻さない。ポビドンヨードは着色し有機物で失活しやすく、クロルヘキシジンは持続性が高く有機物で失活しにくい(両者とも芽胞には無効)。

手術では、切開する部位の皮膚(術野)をあらかじめ消毒し、皮膚常在菌による手術部位感染(SSI)を防ぐ。

術野の皮膚消毒に用いられる代表的な薬剤が、ポビドンヨード(ヨード系)とクロルヘキシジン(グルコン酸クロルヘキシジン)である。

ポビドンヨードは細菌・ウイルス・真菌に幅広く有効で、皮膚への刺激が比較的少ない一方、茶色く着色して術野が見えにくくなり、血液など有機物があると効果が落ちる(失活する)。

クロルヘキシジンは速効性があり消毒効果が持続しやすく、血液や血清タンパクで失活しにくいのが利点だが、まれに皮膚炎やアレルギーを起こすことがあり、目や耳・粘膜への使用は避ける。

どちらも皮膚・術野に使う消毒薬で、芽胞には効かない点は共通している。

消毒は、切開予定部位(最も清潔にしたい中心)から外側へ向かって円を描くように広げ、一度外側に触れた綿球を中心に戻さないのが原則である。

2手術時手洗いの目的と3つの方法

手術時手洗いの目的は、手指の通過菌を除去し、常在菌をできるだけ減らして手術中の再増殖を抑えること。方法には、スクラブ法・ラビング法・両者を組み合わせるツーステージ法がある。

手術時手洗い(surgical scrub)は、日常の手洗いよりも厳重に行う手指消毒で、手袋が破れても術野を汚染しないように、手指から前腕までの菌を減らすことが目的である。

皮膚には、一時的に付着する『通過菌(一過性微生物)』と、もとから棲んでいる『常在菌』があり、手術時手洗いでは通過菌を確実に除去し、常在菌をできるだけ減らして、長い手術の間も菌が増えにくい状態をつくる。

代表的な方法は3つある。

1つ目は消毒薬入りの洗浄剤とブラシなどで洗う『スクラブ法』、2つ目は水を使わず擦式(さっしき)アルコール製剤をすり込む『ラビング法』、3つ目はスクラブ法のあとにラビングを行う『ツーステージ法』である。

なお、スクラブ法とラビング法では、手術部位感染の発生率に明らかな差はないと報告されており、皮膚への負担が少ないラビング法やツーステージ法が広く使われるようになっている。

3スクラブ法(ブラシを使う手洗い)

スクラブ法は、消毒薬(ポビドンヨードやクロルヘキシジンを含むスクラブ剤)とブラシを使い、手指から前腕を洗浄・消毒して流水で洗い流す古くからの方法。指先を最も清潔に保ち、洗い終えた手は下げない。

スクラブ法は、古くから行われてきた手術時手洗いで、消毒薬を含んだスクラブ剤(ポビドンヨードスクラブやクロルヘキシジンスクラブなど)を用い、ブラシを使って手指から前腕までをこすり洗いする方法である。

手順としては、まず指先・爪の中をブラシでていねいに洗い、手指から前腕に向かって洗い進める。

洗い終えたら、指先を上・肘を下にして手を立て、水が前腕から肘へ流れ落ちるようにして流水ですすぐ。

こうすると、最も清潔にしたい指先に汚れた水が戻ってこない。

ブラシで強くこすりすぎると皮膚が荒れ、かえって菌が増えやすくなるため、近年は爪周囲だけブラシを使い、手のひらや前腕は揉み洗いにする方法も増えている。

洗浄後は手を胸の高さに保ち、腰より下に下げたり周囲の物に触れたりしないようにして、清潔な状態を保ったまま手術室へ入る。

4ラビング法(擦式アルコールをすり込む手洗い)

ラビング法は、ブラシや流水を使わず、速乾性の擦式アルコール製剤(クロルヘキシジン配合など)を手指から前腕にすり込んで乾かす方法。ウォーターレス法とも呼ばれ、皮膚への負担が少なく速い。事前に目に見える汚れは落としておく。

ラビング法(擦式手指消毒)は、ブラシや流水を使わずに、速乾性の擦式アルコール製剤(消毒用アルコールにクロルヘキシジンなどを配合したもの)を、手指から前腕に十分量すり込み、自然乾燥させる方法である。

水を使わないことから『ウォーターレス法』とも呼ばれる。

アルコールの速効性により短時間で高い消毒効果が得られ、ブラシでこすらないため皮膚が荒れにくいという利点がある。

ただしアルコールは芽胞には効かず、目に見える汚れ(有機物)があると効果が落ちるため、手洗い(石けんと流水)であらかじめ汚れを落とし、手をよく乾かしてからすり込むのが原則である。

すり込むときは、指先・爪の周囲・指の間・親指・手首から前腕まで、塗り残しがないように行い、製剤が乾くまで手を振ったりふき取ったりしない。

5滅菌手袋の装着(オープン法とクローズド法)

手術時手洗いのあと、滅菌ガウンを着て滅菌手袋をはめる。装着法には、素手の指先を出して手袋をはめるオープン法と、ガウンの袖口から手を出さずにはめるクローズド法がある。無菌性が高いのはクローズド法。

手術時手洗いを終えたら、滅菌ガウンを着用し、滅菌手袋を装着する。

装着のしかたには大きく2つの方式がある。

オープン法(オープングローブ法)は、ガウンの袖口から素手の指先を出した状態で手袋をはめる方法で、処置や小手術など簡便さが求められる場面で使われる。

クローズド法(クローズドグローブ法)は、ガウンを着たあと手を袖口から外に出さず、袖の中に手を入れたまま手袋をつかんで装着し、最後に袖口を手袋の中へ通す方法である。

クローズド法では、素手が手袋やガウンの外面(清潔面)に直接触れないため汚染のリスクが低く、無菌性が高い。

そのため手術室での手袋装着はクローズド法が主流である。

手袋は外側(清潔面)を素手で触らないこと、装着後は手を胸の高さに保ち、清潔野(おへそから上・胸の前)より外には出さないことが大切である。

6清潔(無菌)操作の原則

清潔(滅菌された側)と不潔(それ以外)を区別し、清潔なものは清潔なものとだけ触れさせる。手は胸の高さに保ち、清潔野に背を向けない、濡れた布は不潔とみなす(ストライクスルー)など、基本ルールを守ることがSSI予防につながる。

手洗い・手袋装着が正しくできても、その後の動きで清潔を保てなければ意味がない。

無菌操作(清潔操作)では、滅菌されている『清潔』な部分と、それ以外の『不潔』な部分をはっきり区別し、清潔なものは清潔なものとだけ接触させる。

具体的には、滅菌手袋をした手は胸からおへその高さ(清潔野)に保ち、腰より下に下げない・腕を組まない・清潔野に背中を向けないようにする。

滅菌ドレープや覆布が濡れると、その湿った部分を通して下の不潔面の菌が表面に染み出る『ストライクスルー(ウィッキング)』が起こるため、濡れた布は不潔とみなす。

清潔な人どうしがすれ違うときは向かい合うか、清潔野どうしを向け合って通る。

清潔か不潔か判断に迷ったものは、すべて不潔として扱うのが安全側の原則である。

これらの基本を術者・助手・器械出し・外回りがチームで守ることが、手術部位感染(SSI)の予防につながる。

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