消毒薬の種類と使い分け

感染対策の基本である「洗浄・消毒・滅菌」の違いを整理し、アルコール・塩素系・逆性石けん・クロルヘキシジン・ヨード系など主要な消毒薬の特徴と、対象(手指・皮膚・粘膜・器具・環境)や微生物に応じた使い分け、そして使用上の注意を文章で理解する。

1洗浄・消毒・滅菌のちがい

洗浄は汚れを物理的に取り除くこと、消毒は病原体を害のない程度まで減らすこと、滅菌はすべての微生物を(芽胞も含め)死滅させること。レベルが上がるほど無菌に近づく。

本文に登場する消毒薬を、主な対象(生体か器具・環境か)と効く微生物の範囲・注意点で整理した分類表。生体には低刺激なものを、芽胞や環境の消毒には範囲の広いものを選ぶ。

感染対策では、似た言葉である『洗浄』『消毒』『滅菌』を正しく区別することが大切である。

洗浄は、汚れや有機物(血液・便など)を水や洗剤で物理的に取り除くことをいう。

消毒は、病原体(有害な微生物)を害のない程度まで減らすことで、すべての微生物を死滅させるわけではない。

滅菌は、芽胞を含むすべての微生物を死滅させ、無菌の状態にすることをいう(高圧蒸気滅菌=オートクレーブなど)。

ポイントは、消毒や滅菌の前にまず洗浄を行うことである。

血液や便などの有機物が残っていると、多くの消毒薬は効きが悪くなるためである。

2殺菌・除菌・抗菌という言葉

似た言葉も区別する。殺菌は『菌を殺す』こと(対象や程度を問わない曖昧な語で、医薬品・医薬部外品にのみ使える)。除菌は菌を取り除いて減らすこと(拭き取りなど物理的除去も含む)。抗菌は菌の増殖を抑えること(今いる菌を殺すわけではない)。

『消毒』『滅菌』のほかにも、殺菌・除菌・抗菌といった似た言葉があり、正しく区別する。

殺菌は、文字どおり『菌を殺す』ことを指すが、殺す対象(どの菌か)や程度(どれくらい殺すか)を含まない曖昧な言葉で、わずかでも菌を殺せば『殺菌』といえる。

医薬品・医薬部外品にのみ使える表現である。

除菌は、菌を取り除いて数を減らすことで、殺すだけでなく、拭き取りやろ過などの物理的に取り除く方法も含まれる。

抗菌は、菌の増殖を抑える(菌が住みにくい環境をつくる)ことで、今いる菌を殺したり取り除いたりするわけではない。

整理すると、滅菌=すべての微生物を死滅・除去、消毒=病原体を害のない程度まで減らす(無毒化)、殺菌=菌を殺す(程度を問わない)、除菌=菌を取り除いて減らす、抗菌=増殖を抑える、となる。

3アルコール類(エタノール・イソプロパノール)

アルコールは速効性があり手指や皮膚・器具表面の消毒に広く使われる。ただし芽胞や一部のウイルス(ノンエンベロープ型)には効きにくく、引火性があり、粘膜や開放創には適さない。

アルコール(消毒用エタノール、イソプロパノールなど)は、速やかに効果を発揮し、乾きやすいことから、手指や皮膚、器具の表面の消毒に広く用いられる。

多くの細菌やエンベロープをもつウイルスに有効である。

一方で、芽胞には無効で、エンベロープをもたない一部のウイルス(ノンエンベロープウイルス)には効きにくいという弱点がある。

また引火性があるため火気に注意が必要で、刺激が強いため粘膜や開放創への使用には適さない。

有機物が多いと効果が落ちるため、汚れを落としてから用いる。

4塩素系(次亜塩素酸ナトリウム)

次亜塩素酸ナトリウムは抗微生物の範囲が広く、ウイルスや芽胞にも比較的有効で、パルボなど環境の消毒に使われる。一方、金属の腐食・脱色・有機物による失活・刺激臭があり、希釈と換気に注意。

次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の主成分)は、抗微生物のはたらく範囲が広く、細菌・多くのウイルス・真菌に有効で、芽胞にも比較的効果を示す。

環境中で抵抗性が強い犬パルボウイルスなどの環境消毒に用いられる代表的な薬剤である。

ただし、金属を腐食させ、布や物を脱色(漂白)し、血液や便などの有機物があると効果が大きく落ちる(失活する)。

刺激臭があり、酸性のものと混ざると有毒な塩素ガスを発生するため、換気と取り扱いに注意する。

用途に応じて適切な濃度に希釈して使う。

5逆性石けん・クロルヘキシジン

逆性石けん(塩化ベンザルコニウム)は低刺激で手指や器具に使えるが、芽胞・結核菌・一部ウイルスに弱く、普通の石けんと混ぜると効果が消える。クロルヘキシジンは皮膚・術野に適し持続性がある。

逆性石けん(第四級アンモニウム塩、塩化ベンザルコニウムなど)は、刺激が少なく、手指や器具・環境の消毒に用いられる。

ただし芽胞や結核菌、一部のウイルスには効きにくく、ふつうの石けん(普通石けん)と一緒に使うと打ち消し合って効果が失われるため、洗剤を十分に洗い流してから用いる。

クロルヘキシジンは、皮膚や手術部位(術野)の消毒に適した低刺激の消毒薬で、効果が持続しやすいという利点がある。

これらは比較的やさしい消毒薬で、生体(皮膚・手指)に使いやすい一方、効く微生物の範囲はアルコールや塩素系より狭いことを理解しておく。

6ヨード系・高水準消毒薬

ポビドンヨードは広い抗微生物作用で皮膚・術野の消毒に使われる(着色する)。グルタラールなどの高水準消毒薬は内視鏡など熱に弱い器具に使うが毒性が強く、生体には用いない。

ポビドンヨード(ヨード系)は、細菌・ウイルス・真菌など幅広い微生物に有効で、皮膚や手術部位の消毒に用いられる。

茶色く着色する性質があり、まれにヨードに過敏な個体もいる。

グルタラール(グルタールアルデヒド)やフタラールなどは、芽胞にも有効な高水準消毒薬で、熱に弱く滅菌しにくい内視鏡などの器具の消毒に使われる。

ただし人体への毒性・刺激が強いため、生体(皮膚や手指)には使わず、換気や手袋などの取り扱いに注意する。

このように、消毒薬は『どの微生物に効くか』『生体に使えるか器具・環境用か』が薬剤ごとに異なる。

7両性界面活性剤とフェノール系

両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシンなど)は中水準で、一般細菌に加えて結核菌にも有効だが、芽胞・多くのウイルスには無効。フェノール系(クレゾールなど)も結核菌・一般細菌に有効だが芽胞・多くのウイルスに弱く、ネコでは中毒に注意。

前述の薬剤のほかにも、用途に応じて使われる消毒薬がある。

両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン塩酸塩など)は、陽イオンと陰イオンの両方の性質をあわせもつ消毒薬で、中水準に位置づけられる。

一般細菌(グラム陽性・陰性)に加えて結核菌にも有効な点が特徴で、これは逆性石けんやクロルヘキシジンにはない長所である。

ただし、芽胞や多くのウイルスには効果が期待できない。

器具・環境の消毒などに用いられる。

フェノール系(フェノール、クレゾール石けんなど)は、一般細菌・結核菌・真菌に有効だが、芽胞や多くのウイルスには弱い。

有機物があっても比較的効果が落ちにくく、独特のにおいがある。

フェノール系で特に重要なのは、ネコがフェノール類をうまく代謝(解毒)できず中毒を起こしやすいため、ネコの環境にはフェノール系消毒薬の使用を避けることである。

8使い分けと注意点

消毒薬は、対象(手指・皮膚・粘膜・器具・環境)・倒したい微生物・材質に合わせて選ぶ。有機物は先に洗浄して落とし、濃度と接触時間を守る。ネコはフェノール系消毒薬に弱い点にも注意。

消毒薬を選ぶときは、何を消毒したいか(手指・皮膚・粘膜・器具・環境)、どの微生物を倒したいか、対象の材質(金属・布など)を考え合わせる。

どの薬剤でも、血液や便などの有機物が残っていると効果が下がるため、まず洗浄で汚れを落としてから消毒するのが原則である。

また、表示された濃度に薄め、必要な接触時間を守ってはじめて十分な効果が得られる。

動物への毒性にも配慮が必要で、とくにネコはフェノール系(クレゾールなど)の消毒薬に対する感受性が高く、中毒を起こしやすいため使用を避ける。

適切な消毒薬の選択と正しい使い方は、院内感染の予防において動物看護師の重要な役割である。

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