図解で学ぶ
動物看護学

飼い主とのコミュニケーション技法(問診・傾聴・説明)

動物自身が症状を言葉で語れない獣医療では、飼い主からどれだけ的確に情報を引き出せるかが診療の質を左右する。相手が自由に話せる『開かれた質問』と、素早く事実を確認できる『閉じた質問』の使い分け、相手の気持ちに寄り添うロジャーズの3原則(共感的理解・無条件の肯定的関心・自己一致)に基づく積極的傾聴、主訴・現病歴・既往歴・飼育環境という問診の基本構成、そして治療方針を十分に説明し同意を得るインフォームドコンセント、『指示に従わせる』コンプライアンスと『主体的に治療に関わってもらう』アドヒアランスの違いまでを、図ではなく文章で読んで理解する。

1獣医療面接の特徴 ― 飼い主から聞き取る

要点人の医療と異なり、獣医療では患者である動物自身が症状を言葉で説明できない。そのため、飼い主から動物の様子を的確に聞き取る問診(獣医療面接)が、診断・治療の質を大きく左右する。動物看護師も、来院時の聞き取りや入院中の様子の伝達などで、飼い主とのコミュニケーションに深く関わる。

人の医療では、患者本人が『いつから、どこが、どのように痛むか』を言葉で伝えることができる。

しかし獣医療では、患者である動物自身が言葉で症状を説明することはできない。

動物の体調の変化に気づき、それを言葉にして伝えるのは、日ごろ動物と暮らしている飼い主である。

そのため、飼い主からどれだけ的確に、必要な情報を聞き取れるかが、診断や治療方針を決めるうえで非常に重要になる。

この聞き取りの場面を獣医療面接(問診)という。

動物看護師も、来院時の受付での聞き取り、入院中の動物の様子を飼い主へ伝える場面、退院後のケアの説明など、さまざまな場面で飼い主とのコミュニケーションに関わる。

信頼関係を築きながら、正確な情報をやり取りする力は、獣医師だけでなく動物看護師にも求められる専門技術の1つである。

2質問技法 ― 開かれた質問と閉じた質問

要点開かれた質問(オープンクエスチョン)は、回答を限定せず相手に自由に話してもらう質問(例:『今日はどうされましたか』)で、多くの情報や飼い主の気づきを引き出しやすい。閉じた質問(クローズドクエスチョン)は、『はい/いいえ』や選択肢で答えられる質問(例:『昨日から吐いていますか』)で、事実を短時間で確認するのに向く。

問診で使う質問のしかたには、大きく2つのタイプがある。

開かれた質問(オープンクエスチョン)は、『今日はどうされましたか』『いつごろから、どんな様子ですか』のように、答え方を限定せず、相手に自由に話してもらう質問である。

飼い主自身も気づいていなかった情報や、幅広い状況が引き出しやすいという利点がある。

閉じた質問(クローズドクエスチョン)は、『昨日から吐いていますか』『ごはんは食べていますか』のように、『はい/いいえ』や、限られた選択肢で答えられる質問である。

短時間で特定の事実を確認するのに向いており、飼い主が焦っているときや、緊急性が高く手短に情報を得たいときに有効である。

実際の問診では、はじめに開かれた質問で状況を大きくつかみ、そのあと閉じた質問で気になる点を1つずつ具体的に確認していく、という組み合わせ方がよく使われる。

3傾聴の技法 ― 積極的傾聴とロジャーズの3原則

要点傾聴(積極的傾聴)は、相手の話に注意深く耳を傾け、気持ちに寄り添って理解しようとする聴き方。心理学者カール・ロジャーズが提唱した『共感的理解』『無条件の肯定的関心』『自己一致』の3原則が基本となる。相づち・要約・感情の伝え返しなどの技法を使う。

傾聴(積極的傾聴)とは、ただ話を聞き流すのではなく、相手の話に注意深く耳を傾け、その気持ちに寄り添いながら理解しようとする聴き方である。

もともとは心理カウンセリングの技法として発展し、現在は看護・介護など、人の話をじっくり聴く必要がある多くの分野で使われている。

傾聴の基本となるのが、アメリカの心理学者カール・ロジャーズが提唱した3つの原則である。

①共感的理解(相手の気持ちを、相手の立場に立って理解しようとすること)、②無条件の肯定的関心(相手の話を評価・否定せず、ありのままに関心をもって受け止めること)、③自己一致(聴き手自身が、ありのままの自分でいて、誠実に向き合うこと)の3つである。

具体的な技法としては、適切なタイミングでの相づち、相手の話を要約して伝え返す、相手の感情(不安・悲しみなど)を言葉にして伝え返す、といったものがある。

飼い主が不安な気持ちで来院している場合、傾聴によって安心感をもってもらうことが、その後の正確な情報収集にもつながる。

4問診の基本構成 ― 主訴・現病歴・既往歴・飼育環境

要点動物病院の問診では、主訴(今日いちばん困っている症状)、現病歴(症状がいつから・どのように経過してきたか)、既往歴・予防歴(過去の病気やワクチン接種・ノミダニフィラリア予防の状況)、そして飼育環境(食事内容、同居動物、生活環境など)を聞き取るのが基本構成となる。

動物病院での問診は、いくつかの項目に沿って聞き取ることで、聞き漏らしを防ぎやすくなる。

まず、主訴(今日いちばん困っている症状・来院のきっかけ)を確認する。

次に、現病歴として、その症状がいつから始まり、どのように変化してきたか(頻度、悪化・改善の有無など)を聞く。

さらに、既往歴・予防歴として、過去にかかった大きな病気やアレルギーの有無、ワクチン接種歴、ノミ・マダニ・フィラリアの予防状況、現在使用している薬やサプリメントなどを確認する。

獣医療に特有の重要な項目が、飼育環境である。

食事の内容や与え方、同居している動物の有無、室内飼いか屋外飼いか、といった生活環境の情報は、症状の原因や適切な治療方針を考えるうえで欠かせない。

これらの情報を、開かれた質問と閉じた質問を使い分けながら、順序立てて聞き取っていく。

5インフォームドコンセント(説明と同意)

要点インフォームドコンセントとは、飼い主が病状・検査や治療の選択肢・予後・診療料金などについて十分な説明を受け(informed)、理解したうえで、治療方針に同意する(consent)ことをいう。獣医師と飼い主の信頼関係を深め、飼い主が納得して治療を選べるようにするために重要な考え方である。

インフォームドコンセントとは、『説明と同意』と訳される考え方で、獣医師が病状、検査や治療の選択肢とそれぞれのメリット・デメリット、予後(今後の見通し)、診療にかかる料金などについて、飼い主に十分な説明を行い(informed)、飼い主がそれを理解したうえで、治療方針に同意する(consent)ことをいう。

動物自身は治療方針を自分で選ぶことができないため、飼い主が『動物に代わって』十分な情報をもとに判断できるようにすることが重要になる。

インフォームドコンセントを徹底することは、獣医師と飼い主のコミュニケーションを深め、信頼関係を築くことにつながる。

また、治療方針を飼い主自身が納得して選んだという実感は、その後の治療への協力にもつながりやすい。

動物看護師も、獣医師の説明を補足したり、飼い主が理解できているかを確認したりする場面で、インフォームドコンセントに関わることがある。

6コンプライアンスとアドヒアランス

要点コンプライアンスは、飼い主が獣医師の指示どおりに投薬・ケアを行っているかという『指示への従順さ』を表す考え方。アドヒアランスは、飼い主自身が治療方針の決定に主体的に関わり、納得して治療に取り組んでいるかを表す考え方。現在は、飼い主の主体性を重視するアドヒアランスの考え方が重視されている。

動物が処方どおりに薬を飲めているか、指示どおりのケアができているかを表す言葉に、コンプライアンスとアドヒアランスがある。

コンプライアンス(服薬遵守)は、『獣医師の指示に、飼い主がどれだけ従って投薬・ケアを行っているか』という考え方である。

この考え方では、うまくいかない場合、原因は指示に従わない飼い主の側にあると捉えられがちであった。

アドヒアランスは、『飼い主自身が治療方針の決定に主体的に関わり、納得したうえで積極的に治療に取り組んでいるか』という考え方である。

うまくいかない場合も、飼い主だけでなく、説明の仕方や治療方針そのものにも原因があるかもしれない、と双方向で捉える。

世界保健機関(WHO)が2001年に、コンプライアンスよりアドヒアランスという考え方を推進する方針を示したこともあり、現在の医療・獣医療では、飼い主の主体性を重視するアドヒアランスの考え方が重視されている。

アドヒアランスを高めるには、飼い主が治療の必要性を理解し納得できるよう、わかりやすい説明を行うことが欠かせない。

7わかりやすい説明・対話の工夫

要点飼い主への説明では、専門用語をそのまま使わず、日常的な言葉に言い換える、図や模型を使う、説明後に理解度を確認する(復唱してもらう等)といった工夫が大切。一方的に話すのではなく、飼い主が質問しやすい雰囲気をつくることも重要である。

獣医師・動物看護師にとって当たり前の専門用語も、飼い主にはわかりにくいことが多い。

『多飲多尿』ではなく『水をたくさん飲んで、おしっこの量が増えている状態』のように、日常的な言葉に言い換えて説明することが大切である。

図やイラスト、模型などを使って視覚的に説明すると、言葉だけよりも理解してもらいやすくなる。

説明した内容がきちんと伝わっているかを確認するために、説明の最後に『今日お伝えしたことを、少し振り返ってみましょうか』などと、飼い主自身の言葉で説明してもらう(復唱してもらう)ことも有効である。

また、一方的に説明を続けるのではなく、飼い主が途中で質問しやすいよう、間を置いたり『ここまでで何か気になる点はありますか』と声をかけたりすることも、対話としてのコミュニケーションには欠かせない。

理解できたら腕試し
確認問題 10問をとく