吸入麻酔器の構造と各部の役割

吸入麻酔器は、酸素に麻酔ガスを混ぜて動物に送り、呼気を処理して循環させる装置。回路には、余剰ガスを逃がして圧を調整するポップオフバルブ(APL弁)、ガスをためて用手換気にも使うリザーバーバッグ、回路内の圧を見る気道内圧計、ガスを一方向に流す一方向弁、呼気中のCO2を吸収するソーダライムがある。各部の役割と、ポップオフバルブの取り扱いの重要性を学ぶ。

1吸入麻酔器と循環式(再呼吸)回路

吸入麻酔器は、酸素に気化させた吸入麻酔薬を混ぜて動物に送り、吐いた息(呼気)を処理して再び回す装置。呼気からCO2を取り除いて再利用する方式を循環式(再呼吸)回路といい、ポップオフバルブ・リザーバーバッグ・一方向弁・ソーダライムなどで構成される。

循環式(再呼吸)回路のガスの流れ。酸素・空気に気化器の麻酔ガスが混ざって吸気弁から動物へ送られ、呼気は呼気弁からソーダライムでCO2を除かれ、リザーバーバッグを経て再循環する。ポップオフバルブ(APL弁)が余剰ガスを排ガスへ逃がして回路内圧を調整し、気道内圧計が圧を監視する。

吸入麻酔器は、酸素(や空気)に、気化器で気体にした吸入麻酔薬を混ぜ、その混合ガスを気管チューブやマスクを通して動物に送り、全身麻酔を維持するための装置である。

動物が吐いた息(呼気)には、まだ使える麻酔ガスと、体から出た二酸化炭素(CO2)が含まれる。

呼気からCO2だけを取り除いて、残りのガスを新鮮なガスと混ぜて再び吸わせる方式を、循環式(再呼吸式)回路という。

ガスを再利用できるため経済的で、麻酔ガスの無駄が少ない。

この回路は、いくつかの部品が組み合わさってできている。

代表的なものが、回路内の圧を調整するポップオフバルブ(APL弁)、ガスをためるリザーバーバッグ、圧を表示する気道内圧計、ガスを一方向に流す一方向弁(吸気弁・呼気弁)、CO2を吸収するソーダライムである。

次から、これらの部品の役割を順に見ていく。

麻酔の安全管理では、各部品の働きと正しい扱いを理解することが欠かせない。

2ポップオフバルブ(APL弁)

ポップオフバルブ(APL弁=圧力調整弁)は、回路内の余分なガスを外(排ガスシステム)へ逃がして、回路内の圧を調整する弁。ふだんは開けておく。閉じたままにすると回路内・気道内の圧が上がり続け、肺の圧損傷(気胸)や心停止を起こす危険があり、扱いが最も重要。

ポップオフバルブは、APL弁(調整可能圧力制限弁)・圧力調整弁とも呼ばれ、循環式回路の中で回路内の圧を調整する重要な弁である。

供給されるガスのうち余分(余剰)なガスを、外の排ガスシステムへ逃がすことで、回路内の圧が上がりすぎないようにしている。

ふだん(自発呼吸を見ているとき)は開けておくのが基本である。

用手換気(バッグを手で押して肺に空気を送る)をするときは、いったん閉じ気味にしてバッグを押し、送り終えたらすぐ開けて圧を逃がす。

もっとも注意すべきは、ポップオフバルブを閉じたまま(または閉じ忘れた状態で)ガスを流し続けることである。

逃げ場を失ったガスで回路内・気道内の圧がどんどん上がり、リザーバーバッグがパンパンに膨らみ、肺に過大な圧がかかる。

これにより肺胞が破れて気胸を起こしたり、胸腔内圧の上昇で心臓に血液が戻れなくなって血圧低下・心停止に至ったりする危険がある。

用手換気のあと数秒開け忘れただけでも危険域に達しうるため、ポップオフバルブの開閉は、麻酔管理でとくに気をつけるポイントである。

3リザーバーバッグ(呼吸バッグ)

リザーバーバッグ(呼吸バッグ)は、ガスをためておく袋。①吸気時に必要な量のガスを供給する貯留、②手で押して肺にガスを送る用手換気、③動物の呼吸に合わせてふくらむ・しぼむことで自発呼吸の観察ができる、という役割をもつ。

リザーバーバッグ(呼吸バッグ、ラグビーボールのような形の袋)は、回路の中でガスをためておく部品で、いくつかの役割を兼ねる。

1つ目は、ガスの貯留である。

動物が大きく息を吸うときには、流量計から流れてくる量だけでは足りないことがあるが、バッグにためてあるガスがその不足を補う。

2つ目は、用手換気(バッグ換気)である。

ポップオフバルブを閉じ気味にしてバッグを手で押すと、中のガスが気管チューブを通って肺に送り込まれる。

自発呼吸が弱いときや無呼吸のとき、術者が手で呼吸を助けることができる。

3つ目は、自発呼吸の観察である。

動物が自分で呼吸していると、息を吸うときにバッグがしぼみ、吐くときにふくらむ。

このバッグの動きを見て、呼吸の有無・回数・深さを観察できる。

バッグの動きが止まったり、極端に大きく/小さくなったりしたときは、呼吸の異常や回路のトラブル(閉塞・リーク・ポップオフの閉じ忘れなど)のサインになる。

4気道内圧計と一方向弁

気道内圧計(回路内圧計)は、回路内=気道にかかっている圧を表示するメーター。圧が上がりすぎていないかを監視する。一方向弁(吸気弁・呼気弁)は、循環式回路でガスを決まった向き(一方向)にだけ流し、吸ったガスと吐いたガスが混ざらないようにする弁。

気道内圧計(回路内圧計)は、回路の中=動物の気道にどれくらいの圧がかかっているかを数値(メーター)で示す部品である。

用手換気のときに適切な圧で送れているか、また、ポップオフバルブの閉じ忘れなどで圧が危険なほど上がっていないかを、目で確認するために使う。

圧が高すぎる表示は、肺を傷つける危険のサインである。

一方向弁(吸気弁・呼気弁)は、循環式回路の中でガスが決まった向きにだけ流れるようにする弁である。

吸気弁は、動物が吸うときにガスを動物の方へ送り、呼気弁は、動物が吐いたガスをCO2吸収側(ソーダライム)へ向かわせる。

この2つの弁があることで、ガスが一方向に循環し、吸ったばかりの新鮮なガスと、吐いたCO2の多いガスが混ざらないようにしている。

弁が固着したり正しく動かなかったりすると、ガスが逆流してCO2を再び吸い込んでしまう(再呼吸の異常)などのトラブルが起こるため、点検が必要である。

5ソーダライム(二酸化炭素吸収剤)と看護

ソーダライムは、動物が吐いた呼気中の二酸化炭素(CO2)を化学的に吸収して取り除く薬剤。これによりガスを安全に再利用できる。吸収すると色が変わり、70%以上変色したら交換する。麻酔前後の点検(回路・リーク・ポップオフ・ソーダライム)が看護師の重要な役割。

ソーダライムは、循環式回路の中で、動物が吐き出した呼気にふくまれる二酸化炭素(CO2)を化学反応で吸収して取り除く薬剤(吸収剤)である。

呼気からCO2を取り除くことで、残りのガスを新鮮なガスと混ぜて再び動物に吸わせても、CO2がたまらないようにできる。

これが循環式(再呼吸)回路を安全に使えるしくみである。

ソーダライムは、CO2を吸収すると色が変わる(変色する)性質があり、これが交換の目安になる。

一般に、全体の70%以上が変色したら新しいものに交換する。

古くなったソーダライムを使い続けると、CO2を取り除けず、動物の体にCO2がたまって高二酸化炭素血症を起こす。

動物看護師は、麻酔の前に、麻酔器・回路の組み立て、ガスのリーク(漏れ)がないか、ポップオフバルブが正しく開いているか、ソーダライムの変色(残量)、気化器の薬液量、酸素の残量などを点検する。

麻酔中は、リザーバーバッグの動き・気道内圧・モニターを観察し、ポップオフバルブの開け忘れなどの異常にいち早く気づくことが、安全な麻酔管理につながる。

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