母子免疫(移行抗体と初乳)

生まれたばかりの新生子は自分の免疫が未熟なため、母親の抗体(移行抗体)に守られる。抗体が母から子へ渡る道には『胎盤を通る道』と『初乳を飲んで腸から吸収する道』があり、どちらが主かは胎盤の型によって動物種ごとに大きく異なる。ウマ・ウシなどは初乳に100%依存、イヌ・ネコは初乳が主体、ヒト・ウサギは胎盤も使う——この違いと初乳の重要性を学ぶ。

1受動免疫と移行抗体(2つの道)

新生子は自分で十分な抗体をつくれないため、母親の抗体をもらって身を守る(受動免疫)。この『移行抗体』が母から子へ渡る道は2つ——①妊娠中に胎盤を通って渡る道、②生後に初乳を飲んで腸から吸収する道。どちらが主役かは動物種でちがう。

母親がつくった抗体(移行抗体)は、①妊娠中に胎盤を通る道と、②生後に初乳を飲んで腸から吸収する道の2つで、免疫が未熟な新生子へ渡って身を守る(受動免疫)。どちらが主役になるかは胎盤の型によって動物種ごとに異なる。

生まれたばかりの新生子(子犬・子猫・子牛など)は、自分の免疫がまだ未熟で、十分な抗体を自分でつくることができない。

そこで、母親がつくった抗体を分けてもらうことで、最初の数週間〜数か月を感染から守る。

これを受動免疫といい、もらう抗体を『移行抗体(母子免疫)』という。

母親の抗体が子へ渡る道は、大きく2つある。

1つ目は、妊娠中に『胎盤』を通って、母体の血液から胎子へ抗体が渡る道である。

2つ目は、生後に母親の最初の乳『初乳(しょにゅう)』を飲み、それを腸から吸収して抗体を取り込む道である。

重要なのは、この2つの道のうちどちらが主役になるかが、胎盤の型(前のレッスンで学んだ帯状・盤状・散在性など)によって動物種ごとに大きく異なる、という点である。

2動物種による移行抗体の道のちがい

胎盤を通せる量が動物でちがう。ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタは胎盤をほとんど通さず、抗体はほぼ初乳から(胎盤≒0%・初乳≒100%)。イヌ・ネコは胎盤が少し・初乳が主体(およそ胎盤10%・初乳90%)。ヒト・ウサギは胎盤を通してかなり渡せる(胎盤と初乳の両方)。

移行抗体が『胎盤の道』と『初乳の道』のどちらでどれだけ渡るかは、おおよそ次のように整理できる。

ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタでは、胎盤の構造(上皮絨毛性などで層が厚い)のため、妊娠中に抗体がほとんど胎盤を通れない。

そのため抗体はほぼすべて初乳から得る(胎盤からおよそ0%・初乳からおよそ100%)。

これらの動物では、生まれた子が初乳を飲めるかどうかが生死を分けるほど重要になる。

イヌ・ネコでは、胎盤を通して少しは抗体が渡るが、大部分は初乳から得る(およそ胎盤10%・初乳90%)。

ヒト・ウサギでは、胎盤(盤状胎盤など)を通して、妊娠中にかなりの抗体(IgG)が胎子へ渡る。

そのため、生まれた時点ですでに母由来の抗体をもっており、初乳・母乳の役割は相対的に小さい(胎盤と初乳の両方で受け取る)。

『ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタ=初乳だけが頼り、イヌ・ネコ=主に初乳、ヒト・ウサギ=胎盤も使える』とおさえる。

3初乳とその中の免疫グロブリン

初乳は出産後数日のあいだだけ出る特別な乳で、抗体(免疫グロブリン)を豊富に含む。ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタ・イヌ・ネコなど多くの動物の初乳は『IgG』を多く含む。一方、胎盤で十分にIgGを渡せるヒトやウサギの乳は『IgA』が多い。

初乳は、出産後しばらく(数日)のあいだだけ分泌される特別な乳で、ふつうの乳(常乳)よりも抗体(免疫グロブリン)を非常に多く含んでいる。

ウマ・ウシ・ヒツジ・ブタ・イヌ・ネコなど、抗体を初乳に頼る多くの動物では、初乳に全身の感染防御に働く『IgG(免疫グロブリンG)』が高濃度に含まれている。

新生子はこのIgGを腸から吸収して全身の防御に使う。

一方、ヒトやウサギは、妊娠中に胎盤を通してすでに十分なIgGを子へ渡している。

そのため、これらの動物の乳では全身防御のIgGよりも、腸など粘膜の表面を守る『IgA(免疫グロブリンA)』が多く含まれる。

つまり、『初乳でIgGをたっぷり渡す動物(ウマ・ウシ・ブタ・イヌ・ネコなど)』と、『胎盤でIgGを渡し、乳ではIgAが主体の動物(ヒト・ウサギ)』という対比になる。

4胎盤を通る抗体はIgG

5種類ある免疫グロブリンのうち、胎盤を通って胎子へ渡れる(胎児期に移行する)のはIgG。IgGは分子が比較的小さく胎盤を通過できる。新生子の腸が抗体を吸収できるのも生後ごく短い期間に限られるため、早い初乳摂取が大切。

免疫グロブリンにはIgG・IgA・IgM・IgD・IgEの5種類があるが、このうち胎盤を通って母体から胎子へ渡れる(胎児期に移行する)のは『IgG』である。

IgGは分子が比較的小さく、胎盤を通過しやすいためである(ヒトでは胎盤を通れる唯一の免疫グロブリンとされる)。

一方、初乳から得る抗体も中心はIgGで、新生子はこれを腸の粘膜から吸収して血液中に取り込む。

ただし、新生子の腸が抗体をそのまま吸収できるのは、生後ごく短い期間(多くは生後24時間以内が中心)に限られる。

時間がたつと腸は大きな抗体分子を吸収できなくなる。

そのため、とくに初乳だけが頼りの動物(ウマ・ウシなど)では、生まれたらできるだけ早く初乳を飲ませることが、移行抗体をしっかり得るうえで決定的に重要になる。

5初乳の重要性と移行免疫不全・看護

初乳を十分に飲めないと移行抗体が不足し(移行免疫不全)、感染症にかかりやすく重症化しやすい。とくにウマ・ウシなど初乳依存の動物で問題になる。看護では、出生後できるだけ早く初乳を飲ませること、飲めない子への対応、母乳・母子の状態の観察が大切。

初乳をうまく飲めない、初乳の質や量が足りない、飲むのが遅れて腸が吸収できなくなった、などの理由で移行抗体が十分に得られないと、新生子は感染症に対して無防備になり、かかりやすく重症化しやすくなる。

この状態を『移行免疫不全(受動免疫の移行不全)』という。

とくにウマ・ウシのように抗体を初乳だけに頼る動物では、移行免疫不全は命に関わる重大な問題で、子馬などでは特に注意される。

動物看護の場面では、出生後できるだけ早く(腸が吸収できるうちに)初乳を飲ませることを支援する。

母親が育児放棄したり乳が出なかったりする場合には、保存しておいた初乳や代用初乳を与えるなどの対応をとる。

また、子がしっかり乳を飲めているか、母親の乳房・乳の状態、新生子の元気・体温・体重の増えかたを観察し、異常があれば早く対応につなげることが、新生子の生存率を高めるうえで重要である。

理解できたら腕試し!
このテーマの確認テスト