特殊な細菌(マイコプラズマ・リケッチア・クラミジア)とプリオン

マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアは、いずれも原核生物(細菌)でDNAとRNAの両方をもつが、ふつうの細菌とは違う特徴をもつ。マイコプラズマは自己増殖できる最小の微生物で、細胞壁をもたないためβラクタムが効かず、マクロライド・テトラサイクリン・ニューキノロンで治療する。リケッチアは生きた細胞の中でしか増えられない偏性細胞内寄生菌で、ダニ・ノミ・シラミなどの節足動物が媒介し(発疹チフス・紅斑熱・ツツガムシ病)、テトラサイクリンで治療する。クラミジアも偏性細胞内寄生で、自分でATP(エネルギー)を作れず宿主に依存する。オウム病(鳥が感染源、4類感染症)・トラコーマ・クラミジア肺炎・性器クラミジア感染症を起こす。プリオンは核酸をもたない異常タンパク質で、BSE(牛海綿状脳症)などの伝達性海綿状脳症を起こす。

1特殊な細菌とは(ふつうの細菌との違い)

マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアは、原核生物(核膜のない細胞)でDNAとRNAの両方をもつ『細菌の仲間』。ただし、細胞壁がない(マイコプラズマ)、生きた細胞の中でしか増えられない(リケッチア・クラミジア)など、ふつうの細菌と違う特徴をもつ。なお、ウイルスはDNAかRNAの一方しかもたず、プリオンは核酸をもたない点で区別される。

マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアはいずれもDNAとRNAの両方をもつ細菌の仲間で、マイコプラズマは細胞壁をもたず、リケッチア・クラミジアは偏性細胞内寄生。核酸が一方のみのウイルス、核酸をもたないプリオンとの違いを対比した表。

細菌は核膜をもたない『原核生物』で、DNAとRNAの両方をもち、自分で分裂して増える。

マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアも、この『細菌(原核生物)』の仲間で、DNAとRNAの両方をもつ。

ただし、これらはふつうの細菌とは違う特徴をもつため『特殊な細菌』と呼ばれる。

・マイコプラズマ … 細胞壁をもたない。

・リケッチア・クラミジア … 生きた細胞の中でしか増えられない(偏性細胞内寄生)。

区別のために、ほかの微生物も整理しておく。

【ウイルス】DNAかRNAの『どちらか一方』しかもたず、自分だけでは増えられない(細胞に寄生)。

【プリオン】核酸(DNA・RNA)をまったくもたない、異常な『タンパク質』。

【真核生物】核膜をもつ。

原虫・真菌(カビ・キノコ)など。

つまり『DNAとRNAの両方をもつ=細菌(マイコプラズマ・リケッチア・クラミジアを含む)』『一方のみ=ウイルス』『核酸なし=プリオン』と整理できる。

2マイコプラズマ(細胞壁をもたない最小の細菌)

マイコプラズマは、自分の代謝で増殖できる最小の微生物(細菌)。最大の特徴は『細胞壁をもたない』こと。そのため、細胞壁の合成を妨げるβラクタム系(ペニシリンなど)が効かない。治療にはマクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系を用いる。

マイコプラズマは、自分自身の代謝(エネルギー産生など)によって増殖できる微生物のうち『最小』のものとされる細菌である。

最大の特徴は『細胞壁をもたない』ことである。

細胞壁がないため、形が一定でなく(多形性)、グラム染色でも染まらない。

細胞壁がないことは治療にも影響する。

細胞壁の合成を妨げて効くβラクタム系(ペニシリン・セフェムなど)は、マイコプラズマには効かない。

そのため、治療にはタンパク質合成を妨げるマクロライド系・テトラサイクリン系や、核酸合成を妨げるニューキノロン系が用いられる。

動物では、呼吸器や関節・尿生殖器の感染、ヘモプラズマ(赤血球に寄生するマイコプラズマの仲間)による貧血などが知られる。

3リケッチア(偏性細胞内寄生・節足動物が媒介)

リケッチアは、生きた宿主細胞の中でしか増えられない偏性細胞内寄生菌。ダニ・ノミ・シラミなどの節足動物が媒介してうつる。代表疾患は発疹チフス・紅斑熱・ツツガムシ病で、ツツガムシ病はダニの一種(ツツガムシ)が媒介する。治療はテトラサイクリン系。

リケッチアは、自分だけでは増えられず、生きた宿主細胞(真核細胞)の中でのみ増殖できる『偏性細胞内寄生菌』である。

ヒトや動物への感染は、おもにダニ・ノミ・シラミなどの『節足動物(ベクター)』を介して起こるのが特徴である。

代表的な病気には、発疹チフス(シラミが媒介)、紅斑熱(マダニが媒介)、ツツガムシ病などがある。

ツツガムシ病は、『ツツガムシ』というダニの一種が媒介してうつるリケッチア感染症で、発熱・発疹・刺し口などを起こす。

リケッチアは細胞内に入り込むため、細胞内によく移行する『テトラサイクリン系』が治療に用いられる。

4クラミジア(ATPを自分で作れない・オウム病)

クラミジアも偏性細胞内寄生菌だが、特徴は『自分でATP(エネルギー)を作る経路をもたない』こと。エネルギーを宿主細胞に頼る(エネルギー寄生体)。代表疾患はオウム病(鳥=オウム・ハト・インコなどが感染源、ヒトにうつる4類感染症)、トラコーマ(眼)、クラミジア肺炎、性器クラミジア感染症。治療はテトラサイクリン・マクロライド・ニューキノロン。

クラミジアも、生きた細胞の中でしか増えられない偏性細胞内寄生菌である。

クラミジア最大の特徴は、『自分でATP(エネルギー)を作り出す経路をもたない』ことで、増殖に必要なエネルギーを宿主細胞に依存する(エネルギー寄生体とも呼ばれる)。

代表的な病気には次のものがある。

・オウム病(オウム病クラミジア)… オウム・ハト・インコなどの鳥が感染源となり、その排泄物などを介してヒトにうつる人獣共通感染症。

感染症法では四類感染症に分類される。

・トラコーマ … 眼の慢性的な感染症。

・クラミジア肺炎。

・性器クラミジア感染症(ヒトの性感染症)。

治療には、細胞内に移行するテトラサイクリン系・マクロライド系や、ニューキノロン系が用いられる。

5プリオン(核酸をもたない異常タンパク質)

プリオンは、DNAもRNAももたない『異常な構造のタンパク質』が病原体となるもの。正常なタンパク質を次々に異常型に変えて脳に蓄積し、脳がスポンジ状になる『伝達性海綿状脳症(TSE)』を起こす。代表がBSE(牛海綿状脳症=いわゆる狂牛病)。通常の加熱・消毒では壊れにくい。

プリオンは、細菌でもウイルスでもなく、核酸(DNA・RNA)をまったくもたない『タンパク質』が病原体となる、特殊な存在である。

プリオンの本体は、異常な立体構造をとったタンパク質である。

これが体内に入ると、正常なタンパク質を次々と同じ異常型に変えていき、脳などの神経組織に蓄積する。

その結果、脳の組織にスポンジ(海綿)のような穴が空く『伝達性海綿状脳症(TSE)』を引き起こす。

代表的なものに、ウシのBSE(牛海綿状脳症、いわゆる狂牛病)、ヒツジのスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病などがある。

BSEは家畜伝染病(伝達性海綿状脳症)にも指定されている。

プリオン(異常タンパク質)は、通常の加熱・消毒・煮沸などでは壊れにくく、不活化しにくいのも特徴である。

6宿主特異性(寄生する動物種の選り好み)

宿主特異性とは、ある病原体(細菌・ウイルス・寄生虫など)が、特定の動物種にだけ寄生・感染し、ほかの動物種には寄生しないという性質のこと。特異性が『高い』ほど、寄生できる相手が限られる。たとえば猫ヘモプラズマ(Mycoplasma haemofelis)は主に猫、犬のバベシア(Babesia gibsoni)は主に犬、というように相手が分かれる。

病原体には、どんな動物にでも感染するものもあれば、決まった動物にしか感染しないものもある。

この『寄生・感染できる動物種の範囲』に関する性質を『宿主特異性(しゅくしゅとくいせい)』という。

宿主特異性が『高い』とは、ある特定の動物種にだけ寄生し、ほかの動物種にはほとんど寄生しない、ということである。

逆に宿主特異性が『低い』病原体は、多くの動物種に感染できる(人獣共通感染症の病原体は宿主の範囲が広いものが多い)。

例として、・猫ヘモプラズマ(Mycoplasma haemofelis)… おもに猫に寄生する。

・犬のバベシア(Babesia gibsoni など)… おもに犬に寄生する。

・シラミ … 種ごとに宿主特異性が高く、イヌジラミはイヌに、ヒトのシラミはヒトに、というように相手が決まっている。

宿主特異性を理解すると、『この寄生虫・菌はどの動物にうつるのか(うつらないのか)』を考える手がかりになり、感染対策や飼い主への説明に役立つ。

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