腎臓のホルモンと機能―EPO・RAAS・ビタミンD

腎臓は尿を作るだけでなく、血圧・造血・カルシウム代謝を調節するホルモン産生臓器でもある。エリスロポエチン(EPO)による赤血球産生促進、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)による血圧調節、25-ヒドロキシビタミンDから活性型(カルシトリオール)への変換の3つの軸を学ぶ。腎不全時の腎性貧血・高血圧・低カルシウム血症との関連も整理する。

1腎臓の5つの主要機能

腎臓はホルモン産生・活性化も担う多機能臓器。①尿産生(老廃物排泄)②電解質・水バランス調節 ③血圧調節(レニン)④造血促進(エリスロポエチン)⑤ビタミンD活性化(カルシウム代謝)。腎機能が低下するとすべてに影響が出る。

腎臓は尿産生・電解質調節に加え、造血(EPO)・血圧(レニン→RAAS)・ビタミンD活性化というホルモン関連の3機能を担う。腎機能が低下するとこれらすべてに影響が及ぶ。

腎臓(kidney)は腹腔内に左右1対ある臓器で、一般に「尿を作る臓器」として知られるが、実際にはホルモン産生と活性化を担う重要な内分泌臓器でもある。

【①尿産生・老廃物排泄】糸球体で血液を濾過し、尿細管で必要な物質を再吸収・不要な物質を分泌して尿を産生する。

尿素・クレアチニン・尿酸などの代謝産物を体外に排泄する。

【②電解質・水バランス調節】Na⁺・K⁺・Ca²⁺・リンなどの電解質と水分の再吸収・排泄を調節して体液の恒常性を維持する。

【③血圧調節】傍糸球体細胞からレニンを分泌し、レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS)を介して血圧を調節する。

【④造血促進】傍尿細管間質細胞からエリスロポエチン(EPO)を分泌し、骨髄での赤血球産生を促進する。

【⑤ビタミンD活性化】肝臓で産生された25-ヒドロキシビタミンDを、腎臓で活性型の1,25-ジヒドロキシビタミンD(カルシトリオール)に変換する。

2エリスロポエチン(EPO)―赤血球産生と腎性貧血

エリスロポエチン(EPO)は腎臓の傍尿細管間質細胞から分泌され、骨髄の造血幹細胞(赤血球前駆細胞)に働いて赤血球産生を促進する。腎不全でEPO産生が低下すると赤血球が減少して腎性貧血となり、動悸・息切れ・疲労感が現れる。

エリスロポエチン(EPO:erythropoietin)は腎臓の傍尿細管間質細胞から分泌される糖タンパク質ホルモンで、「造血ホルモン」とも呼ばれる。

EPOは骨髄の造血幹細胞(赤芽球系前駆細胞)の表面にある受容体に結合し、赤血球(RBC:red blood cell)への分化・増殖を促進する。

EPO分泌の主な刺激は「組織の低酸素(低O₂)」である。

貧血・出血・高地など酸素が不足する状況で腎臓がEPOを増産し、赤血球を増やして酸素運搬能力を高めようとする。

【腎性貧血(renal anemia)】慢性腎臓病(CKD)では機能する腎実質が減少するためEPO産生が低下し、骨髄への刺激が弱まって赤血球が減少する。

腎性貧血の主な症状:貧血(ヘモグロビン低下)・動悸・息切れ(労作時)・易疲労感・蒼白な粘膜。

治療:EPO製剤(遺伝子組換えエリスロポエチン)の投与で補充できる。

鉄剤の補充も同時に行うことが多い。

動物では犬・猫の慢性腎不全で腎性貧血が高頻度に見られ、飼い主が気づくきっかけとなることも多い。

3RAAS(レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系)の仕組み

RAASは血圧・体液量の調節システム。腎灌流低下→レニン分泌→アンジオテンシンI→ACE(肺)→アンジオテンシンII→①血管収縮(血圧上昇)②副腎からアルドステロン分泌→Na/水再吸収→血液量増加。レニン自体は血管収縮しない。最終的な血管収縮はアンジオテンシンIIが担う。

レニン−アンジオテンシン−アルドステロン系(RAAS:Renin-Angiotensin-Aldosterone System)は、血圧低下・体液量減少に応答して血圧を回復させるホルモンカスケードである。

【ステップ1:レニン分泌】腎臓の傍糸球体細胞(juxtaglomerular cell)が腎臓への血流低下(糸球体内圧の低下)を感知し、「レニン(renin)」という酵素を血中に分泌する。

【ステップ2:アンジオテンシンI生成】レニンは肝臓が産生するアンジオテンシノーゲンに作用し、アンジオテンシンI(10アミノ酸)を生成する。

この段階ではまだ生物活性はほとんどない。

【ステップ3:アンジオテンシンII生成】アンジオテンシンIは主に肺の毛細血管に存在するACE(アンジオテンシン変換酵素)によってアンジオテンシンII(8アミノ酸)に変換される。

これが活性型。

【ステップ4:アンジオテンシンIIの作用】①全身の細動脈を直接収縮させて血管抵抗を上げ、血圧を上昇させる。

②副腎皮質球状帯を刺激してアルドステロンを分泌させる。

③口渇感を引き起こして飲水行動を促す。

【ステップ5:アルドステロンの作用】腎臓の尿細管でNa⁺の再吸収(+K⁺排泄)を促進し、水も引き込まれて体液量・血液量が増加する。

血液量増加が心拍出量を増やし血圧を上昇させる。

まとめると:血圧低下→レニン→アンジオテンシンII→血管収縮+アルドステロン→Na/水保持→血圧回復。

4腎不全でのRAAS過活性化―高血圧の悪循環

腎不全で腎への血流が低下するとRAASが過剰に活性化される。血圧を上げても腎機能が回復しないため尿量が増えず、レニンがさらに分泌され血圧がどんどん上昇する悪循環が形成される。この悪循環が腎臓をさらに障害し、腎性高血圧の典型的な病態となる。

正常な腎臓なら血圧が上がれば糸球体濾過量(GFR)が増えて尿量も増加し、RAASは自然と抑制される。

しかし慢性腎不全では腎実質が失われているため、血圧が上昇しても尿産生が増えない。

このとき腎臓はまだ「血流が足りない」と誤認してレニンをさらに分泌し続ける。

その結果:①アンジオテンシンIIによる血管収縮がさらに強まる。

②アルドステロンがさらに増加してNa・水が蓄積する。

③血圧がさらに上昇する。

④上昇した血圧が糸球体に過剰な圧をかけ(糸球体高血圧)腎組織をさらに障害する。

⑤腎機能がさらに低下しRAASがさらに活性化される。

これが「腎性高血圧(renovascular hypertension)」の悪循環である。

動物では慢性腎不全(CKD)に高血圧が合併する頻度が高く、猫のCKDでは高血圧による失明(網膜剥離・出血)や心肥大も起こり得るため、血圧管理が治療の重要な柱となる。

ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)はRAASを遮断してこの悪循環を断ち切るために使用される。

5腎臓によるビタミンD活性化―カルシウム代謝との関連

食事や日光から得たビタミンDは肝臓で25-OH-Dに変換され、腎臓で1α-ヒドロキシラーゼにより活性型の1,25-(OH)₂-D(カルシトリオール)に変換される。活性型ビタミンDは小腸のCa吸収を促進する。腎不全では活性化できず低カルシウム血症・腎性骨異栄養症が生じる。

ビタミンDは食事または皮膚での日光合成で得られるが、そのままでは活性がほとんどなく、2段階の変換が必要である。

【第1段階(肝臓)】ビタミンD₃(コレカルシフェロール)→25-ヒドロキシビタミンD(25-OH-D、カルシジオール)に変換される。

血中濃度測定で「ビタミンDが足りているか」を確認する際に測られるのはこの形。

【第2段階(腎臓)】25-OH-Dは腎臓の近位尿細管で「1α-ヒドロキシラーゼ(CYP27B1)」という酵素により、活性型の「1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25-(OH)₂-D、カルシトリオール)」に変換される。

活性型ビタミンDの主な作用:①小腸でのCa²⁺・リン(P)の吸収を大幅に促進する。

②腎臓での Ca²⁺ 再吸収を促進する。

③骨でのCa代謝を調節する。

【腎不全での影響】腎機能低下→1α-ヒドロキシラーゼが不足→活性型ビタミンD産生低下→小腸でのCa吸収低下→低カルシウム血症→PTH(副甲状腺ホルモン)の過剰分泌(二次性副甲状腺機能亢進症)→骨からCaが溶出→骨が弱くなる「腎性骨異栄養症」

治療では活性型ビタミンD製剤(カルシトリオールなど)が使用される。

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