内分泌系の全体像―視床下部・下垂体と標的臓器

視床下部から始まるホルモンカスケードを体系的に学ぶ。視床下部の放出・抑制ホルモン(TRH・CRH・GnRH・GHRH・ドーパミン・ソマトスタチン)が下垂体前葉・後葉を制御し、甲状腺・副腎・性腺などの標的臓器がホルモンを分泌する流れを整理する。松果体・腎臓・心臓など臓器由来のホルモンも含めて全体を把握する。

1視床下部の放出ホルモン・抑制ホルモン一覧

視床下部は下垂体前葉を制御する「上位司令塔」。放出ホルモン(TRH・CRH・GnRH・GHRH・PRH)で下垂体を刺激し、抑制ホルモン(ソマトスタチン・ドーパミン)で抑える。ドーパミンはプロラクチン抑制因子(PIF)であり、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)とは別物。

視床下部は放出ホルモン(TRH・CRH・GnRH・GHRH・PRH)で下垂体前葉を刺激し、TSH・ACTH・FSH・LH・GH・PRLの分泌を促す。一方ソマトスタチンはGHを、ドーパミン(PIF)はPRLの分泌を抑制する。

視床下部(hypothalamus)は脳の間脳に位置し、下垂体(脳下垂体)と門脈系でつながっている。

視床下部が分泌するホルモンは「放出ホルモン(RH)」「抑制ホルモン(IH)」に分かれる。

【放出ホルモン一覧】①TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)→ 下垂体前葉からTSH(甲状腺刺激ホルモン)を放出させる。

②CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)→ 下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)を放出させる。

③GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン、LH-RHともいう)→ 下垂体前葉からFSH・LHを放出させる。

④GHRH(成長ホルモン放出ホルモン)→ 下垂体前葉からGH(成長ホルモン)を放出させる。

⑤PRH(プロラクチン放出ホルモン)→ 下垂体前葉からPRL(プロラクチン)を放出させる。

【抑制ホルモン一覧】⑥ソマトスタチン(SS、GHIH)→ 下垂体前葉からのGH(成長ホルモン)分泌を抑制する。

膵臓のδ細胞でも産生される。

⑦ドーパミン(DA)→ プロラクチン抑制因子(PIF)として働き、下垂体前葉からのPRL(プロラクチン)分泌を抑制する。

成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)とは全く別物。

覚え方:TRH→CRH→GnRH→GHRH(放出系)、ドーパミン→プロラクチン抑制、ソマトスタチン→GH抑制。

2下垂体前葉のホルモン―TSH・ACTH・FSH・LH・PRL・GH

下垂体前葉は視床下部の指令を受けて6種のホルモンを分泌する。TSH→甲状腺、ACTH→副腎皮質、FSH・LH(ICSH)→性腺、PRL→乳腺、GH→全身の成長。それぞれが標的臓器を刺激する「中間司令ホルモン」。

下垂体前葉(adenohypophysis)は視床下部からの放出・抑制ホルモンを受けて、6種類のホルモンを血中に分泌する。

①TSH(甲状腺刺激ホルモン、thyroid-stimulating hormone):甲状腺を刺激してT3・T4(甲状腺ホルモン)の合成・分泌を促す。

②ACTH(副腎皮質刺激ホルモン、adrenocorticotropic hormone):副腎皮質を刺激してコルチゾール・アルドステロン・アンドロゲンの分泌を促す。

③FSH(卵胞刺激ホルモン、follicle-stimulating hormone):雌では卵巣の卵胞発育・エストロゲン分泌、雄では精子形成を促す。

④LH(黄体形成ホルモン、luteinizing hormone):雌では排卵・黄体形成・プロゲステロン分泌を促す。

雄ではICSH(間質細胞刺激ホルモン)とも呼ばれ、ライディッヒ細胞を刺激してテストステロンを分泌させる。

⑤PRL(プロラクチン、prolactin):乳腺の発育・乳汁産生を促す。

泌乳中は視床下部ドーパミンによる抑制が弱まり持続的に分泌される。

PRLには乳汁産生以外にも重要な作用がある。

排卵抑制(泌乳性無排卵):授乳中はPRLが高値を保ち、GnRH分泌を抑制してLHサージを起こさせず排卵を抑制する。

黄体活動の維持・抑制:種によっては黄体の機能に関与する。

偽妊娠(pseudopregnancy):雌イヌでは、発情後期の黄体退縮時にPRLが上昇して乳腺発達・巣作り行動・育児行動などの偽妊娠症状を引き起こすことがある。

高PRL状態では警戒心の増大・攻撃性増加が観察されることがある。

⑥GH(成長ホルモン、growth hormone):全身の細胞の成長・タンパク質合成促進・血糖上昇(抗インスリン作用)・脂肪分解を促す。

IGF-1(インスリン様成長因子)産生を肝臓に指示することで骨・筋肉を成長させる。

GHは睡眠中(特に深睡眠時)に多く分泌され、肝臓でのIGF-1産生を通じて成長を促進する。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)とは全く異なる働きをする別のホルモンである点に注意する。

3下垂体中葉・後葉のホルモン―MSH・オキシトシン・ADH

下垂体中葉:MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)→色素細胞を刺激して皮膚の色素沈着を調節。下垂体後葉:オキシトシン(子宮収縮・射乳)・バソプレシン=ADH(腎臓での水再吸収・血圧上昇)。後葉のホルモンは視床下部で産生され、後葉に貯蔵・放出される。

【下垂体中葉】MSH(メラニン細胞刺激ホルモン、melanocyte-stimulating hormone)が分泌され、皮膚・毛の色素細胞(メラノサイト)を刺激してメラニン色素の産生を促し色素沈着を調節する。

【下垂体後葉】後葉(神経下垂体)自体はホルモンを合成せず、視床下部の神経細胞が合成したホルモンを軸索末端に蓄積し放出する貯蔵・放出所である。

①オキシトシン(OT、oxytocin):分娩時に子宮平滑筋を収縮させて出産を促進する。

また哺乳刺激を受けると射乳反射を引き起こして乳汁を放出させる。

動物看護において分娩介助や乳汁分泌不全の際に重要。

②バソプレシン(AVP)=抗利尿ホルモン(ADH、antidiuretic hormone):腎臓の集合管に作用して水の再吸収を促進し尿量を減少させる(抗利尿作用)。

また血管収縮による血圧上昇作用もある。

AVPとADHは同一物質の別名。

脱水・血液浸透圧上昇で分泌増加。

4甲状腺ホルモン―T3・T4とカルシトニン

甲状腺はTSHの刺激を受けてT4(サイロキシン)・T3(トリヨードサイロニン)を分泌する。T3はT4の活性型で代謝促進・心拍増加・体温上昇などを担う。カルシトニンは甲状腺C細胞から分泌され血中カルシウムを低下させる。

甲状腺(thyroid gland)は喉頭の前に位置し、ヨウ素を材料にして2種の甲状腺ホルモンを産生する。

T4(サイロキシン、thyroxine):ヨウ素4個を持つ。

産生量が多いが活性は弱い。

末梢組織でヨウ素を1個外してT3に変換される「プロホルモン」的存在。

T3(トリヨードサイロニン、triiodothyronine):ヨウ素3個を持つ。

活性が強い甲状腺ホルモンの「活性型」

代謝促進・心拍数増加・体温上昇・タンパク質合成・成長・発達に関与。

T3・T4は血中でサイログロブリンや甲状腺結合グロブリン(TBG)と結合して輸送される。

カルシトニン(calcitonin):甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から分泌され、骨へのカルシウム沈着を促進し血中カルシウム(Ca²⁺)濃度を低下させる。

副甲状腺ホルモン(PTH)と拮抗的に働く。

5副腎皮質3層とACTH―アルドステロン・コルチゾール・アンドロゲン

副腎皮質は外側から球状帯→束状帯→網状帯の3層。球状帯→アルドステロン(Na保持・血圧上昇)、束状帯→コルチゾール(糖質コルチコイド・ストレス応答)、網状帯→アンドロゲン(男性ホルモン)。ACTH(下垂体前葉)が主に束状帯・網状帯を刺激。

副腎(adrenal gland)は腎臓の上に位置し、外側の副腎皮質と内側の副腎髄質に分かれる。

副腎皮質は外側から3層に分かれ、それぞれ異なるホルモンを分泌する。

【球状帯(zona glomerulosa)】アルドステロン(aldosterone)を分泌。

鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)の代表で、腎臓の尿細管でNa⁺の再吸収・K⁺の排泄を促進し、体液量と血圧を調節する。

レニン-アンジオテンシン系にも制御される。

【束状帯(zona fasciculata)】コルチゾール(cortisol)を分泌。

糖質コルチコイド(グルココルチコイド)の代表で、血糖上昇・タンパク質分解・脂肪動員・抗炎症作用を持つ。

ストレス応答の中心ホルモン。

ACTHによって主に調節される。

【網状帯(zona reticularis)】アンドロゲン(androgens)を分泌。

副腎性男性ホルモン(DHEAなど)で、精巣・卵巣のホルモンを補完する。

なお、アドレナリンとノルアドレナリンは副腎皮質ではなく副腎髄質から分泌されるカテコールアミンである(次セクション参照)。

6副腎髄質―アドレナリンとノルアドレナリン

副腎髄質は副腎の内側に位置し、交感神経の支配を受けてアドレナリン(エピネフリン)とノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌する。両者は「闘争か逃走か」反応を担うカテコールアミンで、心拍増加・血糖上昇・血管収縮を引き起こす。副腎皮質とは全く別の組織・別の機能。

副腎髄質(adrenal medulla)は副腎の最内層に位置し、神経系(交感神経節後線維)の支配を受けて素早くカテコールアミンを血中に放出する。

アドレナリン(adrenaline、エピネフリン/epinephrine):副腎髄質の分泌の約80%を占める。

心拍数・心拍出量増加、血糖上昇(グリコーゲン分解促進)、気管支拡張、骨格筋への血流増加などを引き起こす。

「闘争か逃走か(fight or flight)」反応の中心ホルモン。

ノルアドレナリン(noradrenaline、ノルエピネフリン):末梢血管収縮と血圧上昇が主な作用。

交感神経末端の神経伝達物質でもある。

副腎髄質ホルモンは副腎皮質ホルモン(ステロイド系)とは全く異なる化学構造(カテコールアミン系)と作用機序を持つ。

試験頻出の誤り:アドレナリンは副腎皮質ではなく副腎髄質から分泌される。

7性腺ホルモン―FSH・LHと卵巣・精巣

下垂体前葉のFSH・LH(雄ではICSH)が性腺を刺激する。卵巣→エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)。精巣→テストステロン(雄性ホルモン)。FSHは配偶子形成、LHは排卵・ステロイド産生を主に担う。

下垂体前葉から分泌されるFSHとLHは生殖を制御する性腺刺激ホルモンで、視床下部のGnRHに支配される。

【雌(卵巣)】FSH→卵胞の発育促進・エストロゲン産生促進。

LH急増(LHサージ)→排卵・黄体形成。

黄体→プロゲステロン分泌。

エストロゲン(estrogen、卵胞ホルモン):二次性徴の発現、子宮内膜の増殖、骨密度維持などに関与。

プロゲステロン(progesterone、黄体ホルモン):子宮内膜の維持・着床準備、妊娠維持、体温上昇(基礎体温上昇)に関与。

【雄(精巣)】FSH→精子形成(セルトリ細胞を介して)。

LH(雄ではICSH:間質細胞刺激ホルモンとも呼ぶ)→ライディッヒ細胞(間質細胞)を刺激してテストステロンを分泌させる。

テストステロン(testosterone):雄性二次性徴・精子形成促進・筋肉増強・骨密度維持などに関与する雄性ホルモン(アンドロゲン)の代表。

8松果体・腎臓・心臓の局所ホルモン

松果体→セロトニン(昼)・メラトニン(夜):概日リズムの調節。腎臓→レニン(血圧上昇調節)・エリスロポエチン(赤血球産生促進)。心臓(心房筋)→ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド:血圧・体液量低下)。

内分泌系は視床下部―下垂体軸だけでなく、全身の臓器から局所ホルモンが分泌される。

【松果体(pineal gland)】脳の松果体はセロトニン(serotonin)とメラトニン(melatonin)を産生する。

セロトニンは昼間の明るい光刺激で産生が増加し、覚醒・気分安定に関与する神経伝達物質・ホルモン。

メラトニンは夜間の暗さで産生が増加し、睡眠誘発・概日リズム(体内時計)の調節に関与する。

動物では季節繁殖(発情期の調節)にも重要。

【腎臓】レニン(renin):腎臓の傍糸球体細胞から分泌され、アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換するレニン―アンジオテンシン―アルドステロン系(RAAS)を活性化し、最終的に血圧を上昇させる。

エリスロポエチン(EPO:erythropoietin):腎臓の傍尿細管間質細胞から分泌され、骨髄の赤血球前駆細胞を刺激して赤血球産生を促進する。

慢性腎不全では産生低下→腎性貧血が生じる。

【心臓(心房筋)】ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド、atrial natriuretic peptide):心房に過剰な血液が流入して壁が伸展されると分泌される。

腎臓でのNa⁺・水の排泄を促進し、血管拡張・血圧低下・体液量減少を引き起こす。

理解できたら腕試し!
このテーマの確認テスト