耳の構造と機能(外耳・中耳・内耳・関連疾患)

耳は外耳(耳介・垂直耳道・水平耳道)・中耳(鼓膜・鼓室・耳小骨:ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)・内耳(蝸牛=聴覚、前庭・半規管=平衡感覚)の3部からなる。イヌ・ネコの外耳道はL字型で汚れやすい。マラセチア性外耳炎は犬に多い真菌性外耳炎で、甲状腺機能低下症やアレルギーが素因となることがある。

1外耳:耳介・垂直耳道・水平耳道

外耳は耳介(音を集める)+外耳道(垂直耳道→水平耳道のL字構造)からなる。イヌ・ネコの外耳道はL字に曲がっているため汚れ・湿気・空気がこもりやすく、外耳炎が起きやすい。垂れ耳(フロッピーイヤー)犬種はさらに通気性が悪い。

外耳→中耳→内耳の3区分の模式図。外耳の耳介で集めた音が垂直耳道→水平耳道(L字)を通って鼓膜へ達し、中耳の耳小骨で増幅され、内耳の蝸牛(聴覚)・前庭・半規管(平衡感覚)へ伝わる流れを示す。

耳は音を感知する聴覚と体のバランスを保つ平衡感覚の両方を担う感覚器で、外耳・中耳・内耳の3部に分けられる。

外耳は音を集めて中耳に届ける部分で、耳介と外耳道からなる。

耳介(じかい)は耳の外から見える軟骨性の部分(いわゆる「耳」の形をした部分)で、周囲の音を集めて外耳道へ導くラッパの役割をもつ。

イヌの耳介は直立耳(シェパードなど)・半垂れ耳・垂れ耳(スパニエルなど)と品種によって形が大きく異なる。

外耳道(がいじどう)はイヌ・ネコで特徴的なL字型(直角に折れ曲がる)の管状の構造で、垂直部(垂直耳道)と水平部(水平耳道)の2つに分けられる。

音は耳介で集められ→垂直耳道→水平耳道の順に進み→鼓膜に到達する。

L字型の構造のため、外耳道内は汚れ・湿気・空気がこもりやすく、細菌や真菌(特にマラセチア)が繁殖しやすい環境になる。

垂れ耳の犬種(コッカースパニエル・バセットハウンドなど)はさらに耳介が外耳道を覆うため通気性が悪く、外耳炎のリスクが高い。

外耳炎の確認や治療には、L字の構造を考慮して外耳道を直線に近づけるよう耳介を持ち上げながら観察・処置を行う。

2中耳:鼓膜・鼓室・耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)

中耳は鼓膜・鼓室(空洞)・耳小骨の3つで構成。耳小骨は鼓膜の振動を内耳へ機械的に増幅して伝える3つの小骨:ツチ骨(malleus)→キヌタ骨(incus)→アブミ骨(stapes)の順に連なる。アブミ骨が卵円窓を振動させ内耳へ音を伝える。

中耳は鼓膜の内側にある空洞の部分で、鼓膜・鼓室・耳小骨(3つの小骨の連鎖)・耳管からなる。

鼓膜(こまく)は外耳道と中耳の境界にある薄い膜で、外耳道を伝わってきた音の振動を受けて振動する。

鼓室(こしつ)は鼓膜の内側にある含気腔(空気が入った空洞)で、耳小骨が存在する。

耳小骨(じしょうこつ)は哺乳類に特徴的な3つの微小な骨の連鎖で、鼓膜の振動を増幅して内耳に伝える。

ツチ骨(つちこつ・malleus):鼓膜に直接連絡し、鼓膜の振動を受け取る。

形がハンマー(ツチ)に似る。

キヌタ骨(きぬたこつ・incus):ツチ骨とアブミ骨の間に位置する中間の骨。

形がキヌタ(絹布を打つ台)に似る。

アブミ骨(あぶみこつ・stapes):最も内耳側にある骨で、内耳の入口(卵円窓・らんえんそう)に接して振動を液体(外リンパ)に伝える。

形が馬の鐙(アブミ)に似る。

この3骨の連鎖により、鼓膜が受けた振動が約20〜30倍に増幅されて内耳へ伝わる。

耳管(じかん)はイーストキアン管(エウスタキオ管)とも呼ばれ、鼓室と咽頭(ノド)をつなぐ管で、鼓室の気圧を外気圧と等しく保つ役割がある(飛行機で耳がツンとする現象はこれに関わる)。

中耳炎は細菌が耳管から上行したり、外耳炎が波及することで起こり、鼓膜の破損や耳小骨への波及で難聴・前庭症状が出ることがある。

3内耳:蝸牛(聴覚)・前庭・半規管(平衡感覚)

内耳は蝸牛(かぎゅう)と前庭迷路(前庭+半規管)からなる。蝸牛はカタツムリ形の器官で有毛細胞(コルチ器)が音の振動を電気信号に変換し聴神経に伝える(聴覚)。前庭は直線加速度と重力方向を感知し、半規管(3本・3次元)は回転加速度を感知する(平衡感覚)。

内耳は側頭骨の奥にある複雑な構造(骨迷路・膜迷路)で、聴覚と平衡感覚の両方を担う。

蝸牛(かぎゅう)はカタツムリの殻のようにぐるぐると巻いた管状の器官で、内部はリンパ液で満たされている。

アブミ骨が卵円窓を振動させると、蝸牛内のリンパ液(外リンパ・内リンパ)に波が生じる。

基底膜上のコルチ器(聴覚受容器)には有毛細胞が並んでおり、リンパ液の振動を感知して電気信号に変換し、聴神経(第VIII脳神経の蝸牛神経)を通して脳へ送られ音として知覚される。

音の高低(周波数)は蝸牛の部位ごとに感知される周波数が異なることで識別される(高音は蝸牛基部、低音は蝸牛頂部)。

前庭(ぜんてい)は蝸牛の入口側にある部分で、内部に卵形嚢(らんけいのう)と球形嚢(きゅうけいのう)があり、平衡砂(じゅうりょくきゅう)が動くことで重力方向や直線加速度を感知する。

半規管(はんきかん)は前庭から出る3本のU字型の管(前半規管・後半規管・外側半規管)で、互いにほぼ直交する3次元方向に配置されており、頭の回転(回転加速度)を感知する。

前庭と半規管からの信号は前庭神経(第VIII脳神経の前庭神経)を通じて脳幹・小脳へ伝わり、姿勢制御・眼球運動(前庭眼反射)・歩行バランスに使われる。

内耳・前庭・小脳が障害されると眼振(眼球が一方向に動き続ける)・頭部傾斜・旋回・ローリングなどの前庭症状が現れる。

4マラセチア性外耳炎と素因(甲状腺機能低下症・アレルギー)

マラセチア(Malassezia pachydermatis)は犬の外耳道に常在する真菌で、過剰増殖すると外耳炎を起こす。特有の茶褐色のネトネトした耳垢とイースト臭が特徴。素因として甲状腺機能低下症・アトピー性皮膚炎・食物アレルギーなどの基礎疾患が重要。

マラセチア性外耳炎はイヌの外耳炎の中で最も多い真菌性外耳炎の一つで、Malassezia pachydermatis(マラセチア・パキデルマティス)という脂質親和性の酵母様真菌の過剰増殖が原因である。

健常犬でもマラセチアは外耳道に少量存在する常在菌だが、耳道の環境が変化すると過剰増殖して炎症を起こす。

症状:茶褐色〜黒色のネトネクした耳垢(ワックス状)・独特のイースト臭・かゆみ(頭を振る・耳を引っかく)・外耳道の発赤・腫脹。

顕微鏡では「雪だるま型(落花生型)」の特徴的な形の酵母細胞が見られる。

素因(なりやすい状態)として以下の基礎疾患が重要である。

甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)はイヌに多い内分泌疾患で、甲状腺ホルモンの低下により皮膚・外耳道の免疫バリアが低下し、マラセチアや細菌が増殖しやすくなる。

脱毛・体重増加・無気力とともに再発性の外耳炎が見られたら甲状腺機能低下症を疑う。

アトピー性皮膚炎・食物アレルギーも皮膚や外耳道の炎症・ バリア障害を起こし、マラセチアや細菌の過剰増殖につながる。

外耳道の形態(垂れ耳・L字構造による湿潤環境)・多毛・過剰な耳掃除による刺激も誘因となる。

治療:外耳道の洗浄(耳洗浄液)+抗真菌薬(ミコナゾールなど)の点耳・塗布。

全身性にはイトラコナゾールなど経口抗真菌薬を使うこともある。

再発が多い場合は必ず基礎疾患(甲状腺・アレルギー)の検索と管理を行う。

理解できたら腕試し!
このテーマの確認テスト