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基礎動物学

イヌ・ネコの行動発達―発達段階と社会化期

イヌ・ネコの行動は、胎生期→新生子期→移行期→社会化期→若齢期という段階を追って発達する。新生子期は反射が中心で排泄も親の刺激に頼り、移行期(約2週齢)で自力排泄ができ始める。社会化期(イヌ約3〜12週、ネコ約2〜7週)は性格の土台を決める最重要期で、この間に離乳や歯の萌出が進む。社会化期の途中(イヌ約8〜10週)には一時的に警戒心が強まる『恐怖期』があり、この時期の強い恐怖は一生残りやすい。あわせて8週齢(56日)規制や、若齢動物で注意すべき薬剤も整理する。

1発達段階の全体像(胎生期〜若齢期)

要点行動発達は段階を追って進む。①胎生期(母体内)②新生子期(生後〜約2週、反射中心・排泄は親の刺激が必要)③移行期(約2〜3週、目や耳が開き自力排泄が可能に)④社会化期(イヌ約3〜12週/ネコ約2〜7週、性格の土台が決まる最重要期)⑤若齢期(社会化期後〜性成熟・約1歳まで)。

行動発達の5段階を早い順に並べた横タイムライン。胎生期(母体内)→新生子期(生後〜約2週)→移行期(約2〜3週)→社会化期(イヌ約3〜12週・ネコ約2〜7週)→若齢期(〜性成熟・約1歳)と進み、性格の土台が決まる社会化期を最重要期として強調している。

イヌ・ネコの行動は生まれてすぐに完成しているわけではなく、決まった段階(ステージ)を順に経て発達していく。

【①胎生期】母体内(子宮内)の時期。

出生前のこの段階から感覚の発達が始まっているとされる。

【②新生子期】生後から約2週齢まで。

行動の多くは反射(吸啜反射など)で成り立ち、自分では体温調節や排泄ができず、排泄は母親が会陰部をなめる刺激によって促される。

目(眼瞼)や耳道はまだ閉じている。

【③移行期】おおよそ生後2〜3週齢。

目や耳が開いて外界の刺激を受け取り始め、よちよち歩きや自力での排泄ができるようになる、新生子期から社会化期への橋渡しの時期。

【④社会化期】イヌでおよそ生後3〜12週、ネコでおよそ生後2〜7週。

人・他の動物・音・環境に慣れ、その後の性格(気質)の土台が決まる最も重要な時期。

【⑤若齢期(若年期)】社会化期が終わってから性成熟(おおむね1歳前後)までの時期。

小型犬では1歳ごろ、大型犬ではそれより遅く性成熟を迎える。

2新生子期と移行期―反射・排泄から自立へ

要点新生子期(〜約2週)は反射が中心で、排泄は母親の刺激(会陰をなめる)に依存する。移行期(約2週齢〜)になると目や耳が開き、自分で排泄できるようになる。『2週齢で自力排泄』が一つの節目。

新生子期の子犬・子猫は、まだ神経や感覚が未熟で、行動の大部分が生まれつきの反射でできている。

代表的なのが吸啜(きゅうてつ)反射で、口に触れたものに吸い付いて乳を飲む。

この時期は自分で排泄をコントロールできず、母親が会陰部(肛門・外陰部のまわり)をなめて刺激することで初めて排尿・排便が促される。

体温調節も未熟で、母や同腹子に寄り添って暖をとる。

生後およそ2週齢になると『移行期』に入り、閉じていた眼瞼(まぶた)が開いて目が見え始め、耳道も開いて音が聞こえるようになる。

そして、この移行期になると親の刺激がなくても自分で排泄できるようになる。

感覚が開けて外界の情報を受け取れるようになることが、次の社会化期に向けた準備となる。

3社会化期―性格の土台を決める最重要期

要点社会化期はイヌ約3〜12週、ネコ約2〜7週(資料により2〜9週とも)。脳が急速に発達し、人・動物・音・環境に慣れる最重要期で、一生の気質を左右する。この時期に離乳が進み、歯(乳歯)も生え始める(おおむね3週齢から)。

社会化期は、人や他の動物、さまざまな音・物・環境に出会って『慣れる』ことを学ぶ時期で、脳が急速に発達し、その後の性格(気質)の土台が決まる最も重要な時期である。

イヌでおよそ生後3〜12週(約3か月齢)、ネコでおよそ生後2〜7週(資料によっては2〜9週)とされる。

この時期に多様な良い経験を重ねた動物は、こわがりにくく人や環境になじみやすい性格に育ちやすい。

社会化期は授乳から固形食へ移行する『離乳』が進む時期でもある(おおむね生後3〜7週ごろ)。

母乳だけでなく食べ物を口にし始め、母や同腹子との関わりの中で噛む力加減(咬抑制)などの社会的な行動も学んでいく。

また、乳歯が生え始めるのもおおむね生後3週齢ごろからで、この歯の萌出も離乳が進む一因となる。

社会化期を過ぎてから新しい刺激に慣らそうとしても難しくなるため、ワクチンプログラムと両立させながら、安全な範囲で多様な経験をさせることがすすめられる。

4社会化期中の恐怖期(イヌ約8〜10週)

要点社会化期の途中、イヌではおよそ8〜10週ごろに一時的に警戒心・恐怖心が強まり、新しい刺激を避けようとする『恐怖期(敏感期)』がある。この時期に経験した強い恐怖や痛みは一生残りやすいため、こわい体験をさせないよう特に配慮する。

社会化期はおおむね好奇心が警戒心を上回る時期だが、その途中に一時的に警戒心・恐怖心が強まる『恐怖期(敏感期)』が知られている。

イヌではおよそ生後8〜10週ごろにこの恐怖期がみられ、新しい刺激や見慣れないものを避けようとする傾向が一時的に強くなる。

問題は、この時期に体験した強い恐怖や痛み・嫌な出来事は、深く刻み込まれて一生残りやすい(後々まで尾を引く)という点である。

たとえばこの時期に大きな音や乱暴な扱い、痛い処置でこわい思いをすると、その対象を生涯こわがり続けることがある。

そのため恐怖期には、無理に怖いものに近づけたり、痛みを伴う体験をさせたりせず、安心できる環境でやさしく接することが大切になる。

動物病院でも、この時期の子犬には特に恐怖を与えない配慮(フィアフリーな対応)が重視される。

58週齢(56日)規制と適期の譲渡

要点『動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)』では、生後56日(8週齢)を経過しない犬猫の販売・引渡し・展示を制限している(8週齢規制)。早すぎる親兄弟からの分離は、咬抑制など社会的行動の学習不足や問題行動につながりやすい。

子犬・子猫を早すぎる時期に母親や同腹子から引き離すと、社会化期に学ぶべき『相手を強く噛みすぎない(咬抑制)』『仲間とのやりとり』などの社会的な行動を十分に学べず、将来の問題行動(過剰な噛みつき・吠え・不安など)につながりやすいことが知られている。

これをふまえ、『動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)』では、ブリーダーやペットショップなどが、生後56日(=8週齢)を経過しない犬猫を販売・引渡し・展示することを制限している。

これを『8週齢規制』と呼ぶ。

この規制は段階的に強化され、当初の生後49日(7週齢)から、最終的に生後56日(8週齢)へと引き上げられた経緯がある。

動物看護師は、適切な時期まで親・同腹子と過ごすことの意義と、迎え入れた後の社会化の進め方を飼い主に説明する役割を担う。

6若齢動物で特に注意する薬剤

要点成長期の動物では一部の薬が発育に悪影響を及ぼす。①ニューキノロン系(エンロフロキサシン=バイトリル等)→幼若動物で関節軟骨の障害。②テトラサイクリン系(ミノサイクリン=ミノマイシン等)→歯の着色や骨・歯の発育への影響。③イベルメクチン→コリー系(MDR1遺伝子変異)で神経毒性(効きすぎ)。

薬の選択では、その動物の『年齢(成長段階)』や『犬種』に注意が必要なものがある。

【ニューキノロン系抗菌薬】エンロフロキサシン(商品名バイトリル)などのニューキノロン(フルオロキノロン)系は、幼若(成長期)の動物で関節軟骨の障害を起こすことが動物実験で示されており、若齢動物への使用には注意が必要。

【テトラサイクリン系抗菌薬】ミノサイクリン(ミノマイシン)などのテトラサイクリン系は、成長期に使うと歯の着色(黄染)やエナメル質形成不全、骨・歯の発育への影響を起こし得るため、幼齢動物では注意する。

【イベルメクチン】コリー、シェルティ、オーストラリアン・シェパードなどのコリー系の犬には、MDR1(ABCB1)遺伝子の変異をもつ個体が多い。

この遺伝子は薬を脳から排出するP-糖タンパク質を作る設計図で、変異があると薬が脳に入り込みやすくなり、イベルメクチンなどで傾眠・運動失調などの神経毒性(薬が効きすぎる中毒)を起こす。

投与前のMDR1遺伝子検査や、薬剤・用量の慎重な選択が重要になる。

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