消化器系の構造・機能と消化管ホルモン

消化管(口・食道・胃・小腸・大腸)と消化腺(唾液腺・肝臓・膵臓)の構造と機能を学ぶ。犬・猫・人の食道の筋肉の違い、胃の分泌細胞(主細胞・壁細胞・副細胞・G細胞)、小腸から分泌されるホルモン(セクレチン・CCK)、膵臓のα・β・δ細胞の役割まで整理する。

1消化管と消化腺の全体像

消化管は口→食道→胃→小腸→大腸→肛門の一本道。消化腺は消化液を分泌する器官で唾液腺・肝臓・膵臓の3つが主要。消化管と消化腺を合わせて「消化器系」と呼ぶ。

消化管は口腔→咽頭→食道→胃→小腸→大腸→肛門と続く一本道で、唾液腺・肝臓・膵臓の三大消化腺が消化液を分泌して消化を助ける。消化は機械的消化と化学的消化の組み合わせで進み、吸収は主に小腸、大腸は水分・電解質の吸収と糞便形成を担う。

消化器系は大きく「消化管」「消化腺」に分けられる。

消化管(digestive tract)は口から肛門までつながる管で、口腔→咽頭→食道→胃→小腸(十二指腸・空腸・回腸)→大腸(盲腸・結腸・直腸)→肛門の順に続く。

消化腺(digestive glands)は消化液を分泌して消化を助ける器官で、唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺)・肝臓(胆汁を産生・貯蔵)・膵臓(膵液を分泌)が三大消化腺である。

消化の過程は「機械的消化(咀嚼・蠕動)」「化学的消化(消化酵素・胃酸による分解)」の組み合わせで行われる。

吸収は主に小腸で行われ、大腸は水分と電解質の吸収・糞便形成を担う。

2口腔と唾液―犬猫はアミラーゼを持たない

口腔では歯による咀嚼と唾液による化学的消化が始まる。ヒトの唾液にはデンプンを分解するアミラーゼが含まれるが、犬・猫の唾液にはアミラーゼがほとんど含まれず(活性は0に近い)植物性食品の消化が苦手。

口腔には歯・舌・歯肉・唾液腺が存在し、食物を咀嚼して唾液と混合する最初の消化の場である。

唾液は耳下腺・顎下腺・舌下腺の3つの唾液腺から分泌され、食物の湿潤・滑らかにする役割と化学的消化を担う。

ヒトの唾液には「唾液アミラーゼ(プチアリン)」が豊富に含まれ、デンプンをマルトースに分解し始める。

一方、犬・猫(肉食性)の唾液にはアミラーゼがほとんど含まれない(唾液アミラーゼ活性は0に近い)。

そのため犬・猫はデンプン等の植物性炭水化物を口腔内で消化することができず、膵臓のアミラーゼに依存する。

犬・猫の唾液の主な役割は食物の湿潤・滑らかにすること(潤滑)と、犬では体温調節(蒸発冷却)である。

なお、ネコの唾液にもグルコアミラーゼなど一部の炭水化物分解酵素がわずかに存在するが機能的に乏しい。

3食道―重層扁平上皮と動物種による筋肉の違い

食道の粘膜は重層扁平上皮。筋層は動物種で大きく異なる:犬は全長が横紋筋(随意筋)、猫は近位1/3が横紋筋・遠位2/3が平滑筋、ヒトは上部1/3が横紋筋・下部2/3が平滑筋。この違いが巨大食道症の治療に影響する。

食道は咽頭と胃をつなぐ管で、粘膜は重層扁平上皮で覆われ、杯細胞が粘液を分泌して食塊の通過を助ける。

食道の壁には筋層があり、蠕動運動(ぜんどううんどう)によって食塊を胃へと送り込む。

【動物種による筋肉の違い】犬:食道の全長(咽頭から胃まで)がほぼ横紋筋(随意筋)で構成される。

意識的にコントロールしやすい構造。

猫:近位1/3が横紋筋、遠位2/3(胸腔内以降)が平滑筋に置き換わっている。

ヒト:上部1/3が横紋筋、下部2/3が平滑筋(不随意筋)。

この違いは臨床的に重要で、メトクロプラミドやシサプリドなどの平滑筋プロキネティクス(蠕動促進薬)は犬の食道には効果がない(横紋筋には作用しないため)。

巨大食道症(食道が拡張して蠕動運動が低下する病気)は犬に多いが、猫では遠位部が平滑筋のため発生様式が異なる。

4胃の分泌細胞―主細胞・壁細胞・副細胞・G細胞

胃腺には4種類の細胞がある。主細胞→ペプシノーゲン(タンパク質消化の前駆体)。壁細胞→塩酸(胃酸)+内因子(ビタミンB12吸収)。副細胞(粘液細胞)→粘液(胃酸から粘膜を守る)。幽門部G細胞→ガストリン(胃酸分泌を促進するホルモン)。

胃では胃腺(いせん)という分泌腺が胃液を産生する。

胃腺には機能の異なる4種類の細胞がある。

【主細胞(chief cell)】胃底部に多く存在し、タンパク質消化酵素の前駆体であるペプシノーゲン(pepsinogen)を分泌する。

ペプシノーゲンは胃酸(低pH環境)に触れると活性型の「ペプシン」に変換され、タンパク質をポリペプチドに分解する。

【壁細胞(parietal cell)】塩酸(HCl)を分泌して胃内を強酸性(pH 1〜2)に保つ。

また壁細胞は「内因子(intrinsic factor)」も分泌する。

内因子はビタミンB12(コバラミン)と結合して回腸での吸収を助ける糖タンパク質で、壁細胞が失われると悪性貧血(ビタミンB12欠乏性貧血)を起こす。

【副細胞・頚部粘液細胞(mucous cell)】粘液(ムチン)を分泌して胃粘膜表面をコーティングし、自身の胃酸・ペプシンによる自己消化を防ぐバリアを形成する。

【G細胞(gastrin cell)】幽門部(pyloric antrum)に多く存在し、消化管ホルモンの「ガストリン(gastrin)」を血中に分泌する。

ガストリンは壁細胞を刺激して胃酸分泌を促進するホルモンで、食物・タンパク質・迷走神経刺激(食事を見る・嗅ぐ)によって分泌が増加する。

5小腸の消化管ホルモン―セクレチンとCCK

小腸(十二指腸)からは2つの重要なホルモンが分泌される。セクレチン(S細胞):胃酸が十二指腸に到達→重炭酸塩に富む膵液分泌促進・胃酸分泌抑制。CCK(I細胞):脂肪・タンパク質が到達→胆嚢収縮・オッディ括約筋弛緩・膵消化酵素分泌促進。

胃から酸性の食塊(粥状液)が十二指腸に到達すると、小腸の内分泌細胞からホルモンが分泌されて消化を調節する。

【セクレチン(secretin)/S細胞】十二指腸のS細胞が、胃酸による低pH刺激を受けて分泌する27アミノ酸のペプチドホルモン。

主な働き:①膵臓に作用して重炭酸塩(HCO₃⁻)に富む膵液を大量に分泌させ、十二指腸内の酸を中和する。

②胃のG細胞に作用して胃酸分泌を抑制する。

膵消化酵素(アミラーゼ・リパーゼなど)が働くには中性〜弱アルカリ性のpHが必要なため、セクレチンによる中和は消化に不可欠である。

【コレシストキニン(CCK:cholecystokinin)/I細胞】十二指腸・空腸近位のI細胞が、脂肪(脂肪酸)・タンパク質(アミノ酸)が到達したときに分泌するペプチドホルモン。

主な働き:①胆嚢を収縮させて胆汁を十二指腸へ放出させる。

②オッディ括約筋(胆管と膵管が十二指腸に開口する部分の括約筋)を弛緩させて胆汁・膵液の流出を促す。

③膵臓の腺房細胞に作用してアミラーゼ・リパーゼ・プロテアーゼ等の消化酵素分泌を促進する。

CCKはかつて「パンクレオザイミン(PZ)」とも呼ばれていたが、同一物質であることが判明して現在は CCK に統一されている。

6膵臓の内分泌―α・β・δ細胞とソマトスタチン

膵臓のランゲルハンス島には3種の内分泌細胞がある。α細胞→グルカゴン(血糖上昇)。β細胞→インスリン(血糖低下)。δ細胞→ソマトスタチン(成長ホルモン・インスリン・グルカゴン・ガストリン・セクレチンなど多くのホルモンの分泌を広く抑制)。

膵臓は外分泌(膵液)と内分泌(ホルモン)の両方を担う臓器である。

内分泌を担うのはランゲルハンス島(膵島)という細胞集団で、主に3種の細胞がある。

【α細胞(A細胞)】グルカゴン(glucagon)を分泌。

血糖値が低下したときに肝臓に作用してグリコーゲンを分解し、グルコースを血中に放出させて血糖値を上昇させる(血糖上昇ホルモン)。

【β細胞(B細胞)】インスリン(insulin)を分泌。

血糖値が上昇したときに全身の細胞にグルコースの取り込みを促し、肝臓や筋肉でのグリコーゲン合成を促進して血糖値を低下させる(血糖低下ホルモン)。

β細胞の破壊または機能不全が糖尿病の主要な原因。

【δ細胞(D細胞)】ソマトスタチン(somatostatin)を分泌。

ソマトスタチンは「総抑制ホルモン」とも呼ばれ、同じ膵島内のα・β細胞のホルモン分泌を抑制するだけでなく、胃のガストリン・小腸のセクレチン・成長ホルモンの分泌も広く抑制する。

消化吸収のペースを緩やかにして栄養素の過剰吸収を防ぐ調節役を担う。

7小腸の構造―絨毛・杯細胞と吸収のしくみ

小腸は吸収に特化した構造を持つ。粘膜ひだ・絨毛・微絨毛(刷子縁)の三重構造で吸収表面積を最大化する。杯細胞が粘液を分泌して粘膜を保護。栄養素はアミノ酸・単糖は毛細血管→門脈→肝臓、脂肪はリンパ管→胸管→静脈へと運ばれる。

小腸(十二指腸・空腸・回腸)は消化と吸収の主要な場で、その粘膜は吸収面積を最大化するための三重構造を持つ。

①輪状ひだ(ケルクリング皺壁):粘膜が輪状にひだを形成する大きな突起。

②絨毛(じゅうもう、villi):輪状ひだの表面から無数の指状突起が伸びる。

絨毛の中には毛細血管とリンパ管(乳糜管)が通っている。

③微絨毛(びじゅうもう、microvilli):絨毛上皮細胞の表面にさらに微細な突起(刷子縁)が密生する。

この三重構造によって小腸の吸収表面積は数百倍に拡大される。

杯細胞(goblet cell)は絨毛の間に散在し、粘液(ムチン)を分泌して粘膜を保護・潤滑する。

吸収された栄養素の経路:アミノ酸・単糖・水溶性ビタミンは毛細血管→門脈→肝臓へ。

脂肪(脂肪酸→カイロミクロン)は乳糜管→リンパ管→胸管→鎖骨下静脈へ。

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