消化器の詳細(筋肉の種類・胃の構造・比較解剖・腸管運動)

骨格筋・心筋・平滑筋の違い、食道の筋層の動物種差、胃の部位と分泌細胞(主細胞・壁細胞・副細胞)、消化管ホルモン(ガストリン・セクレチン・CCK・ソマトスタチン)、反芻動物の四胃・鳥の胃・胆嚢のない動物・結腸の形態差、小腸の運動様式、巨大食道症までを一冊で整理する。

1筋肉の3種類と随意性・横紋の有無

骨格筋は横紋あり・随意筋(意思で動かせる)。心筋は横紋あり・不随意筋(心臓)。平滑筋は横紋なし・不随意筋(内臓・血管)。自律神経が支配するのは心筋と平滑筋(不随意)。

骨格筋・心筋・平滑筋の3種類を、横紋の有無・随意性・支配神経・存在場所で比較した表。横紋があるのは骨格筋と心筋、自律神経が支配するのは心筋と平滑筋で、自分の意思で動かせるのは骨格筋だけである。

筋肉は構造と支配神経によって3種類に分けられる。

骨格筋は骨についている筋肉で、顕微鏡で見るとしま模様(横紋)がある横紋筋であり、自分の意思で動かせる随意筋である。

体性神経(運動神経)が支配する。

心筋は心臓の壁をつくる筋肉で、横紋をもつが自律神経(不随意)の支配を受け、意思とは無関係に動き続ける不随意筋である。

平滑筋は胃・腸・血管・子宮などの内臓の壁にある筋肉で、横紋がなく(平滑)、自律神経の支配を受ける不随意筋である。

まとめると、横紋があるのは骨格筋と心筋、自律神経が支配するのは心筋と平滑筋(いずれも不随意)、自分の意思で動かせるのは骨格筋だけである。

2食道の筋層:動物種による違い

イヌ・ウサギ・反芻動物(ウシ・ヒツジ等)は食道全層が横紋筋。ネコや多くの動物は食道上部が横紋筋、下部(胃に近い側)が平滑筋に移行する。この違いが嘔吐の容易さなどに関わる。

食道の壁には内輪筋・外縦筋の2層の筋肉があるが、その筋肉の種類が動物によって異なる。

イヌ・ウサギ・反芻動物(ウシ・ヒツジ・ヤギなど)では食道の筋層が全長にわたり横紋筋(骨格筋)でできている。

このため嘔吐が容易であり、犬が比較的簡単に嘔吐できるのはこのためである。

ネコをはじめ多くの動物では、食道の上部(咽頭に近い側)は横紋筋だが、下部(胃に近い側)になるにつれ平滑筋に移行する。

ウマも食道下部が平滑筋のため逆流・嘔吐が難しく、胃が膨満しても内容物を戻せないため胃破裂のリスクがある。

この筋層の違いは巨大食道症の発症や臨床的な嘔吐のしやすさにも関わる重要な知識である。

3胃の構造と分泌細胞

胃の入口は噴門、出口は幽門。部位は胃底部・胃体・幽門部。分泌細胞:主細胞→ペプシノーゲン(タンパク消化酵素の前駆体)、壁細胞→塩酸(HCl・pH低下)、副細胞→ムチン(粘液・胃粘膜保護)。

胃は食道側の入口(噴門)と小腸側の出口(幽門)をもち、噴門から順に胃底部・胃体・幽門部(幽門前庭部)に分けられる。

大彎(胃の外側の大きなカーブ)と小彎(内側の小さなカーブ)、胃角(小彎の折れ曲がる部分)も解剖の用語として重要である。

胃の粘膜には3種類の分泌細胞がある。

主細胞(消化酵素細胞)はペプシノーゲンを分泌する。

ペプシノーゲンは塩酸によって活性型のペプシンとなり、タンパク質を分解する。

壁細胞(泌酸細胞)は塩酸(HCl)を分泌し、胃内のpHを非常に低く(強酸性)にする。

これにより殺菌・ペプシン活性化が行われる。

副細胞はムチン(粘液)を分泌し、酸やペプシンから胃の粘膜自体を保護する。

4消化管ホルモン(ガストリン・セクレチン・CCK・ソマトスタチン)

ガストリン(幽門部)は胃酸分泌を促進。セクレチン(十二指腸)は膵液の重炭酸塩分泌を促進し胃酸を中和、胃酸分泌を抑制。コレシストキニン(CCK)は胆嚢を収縮させ胆汁を出す。ソマトスタチンは胃酸分泌を抑制する。

消化管の粘膜には消化を調節するホルモンを分泌する細胞が散在する。

ガストリンは幽門部の粘膜から分泌され、壁細胞に働いて胃酸(HCl)の分泌を強力に促進する。

食物が胃に入ったときや、アセチルコリン・ヒスタミンの刺激でも分泌が増える。

胃酸分泌の促進因子:アセチルコリン(迷走神経)・ヒスタミン(H₂受容体)・ガストリンの3つが主要な促進因子である。

セクレチンは十二指腸の粘膜から酸が流入したときに分泌され、膵臓から重炭酸塩(炭酸水素ナトリウム)を多く含む膵液の分泌を促進して十二指腸の酸を中和する。

同時に胃酸分泌を抑制する。

コレシストキニン(CCK・パンクレオザイミン)は十二指腸から分泌され、胆嚢を収縮させて胆汁を十二指腸に放出させるとともに、膵臓の消化酵素分泌を促進する。

ソマトスタチンは膵臓のδ細胞や胃の粘膜から分泌され、ガストリンの分泌を抑制することで間接的に胃酸分泌を抑制するブレーキ役として働く。

5比較解剖①:胃の種類(単胃・複胃)と動物種差

単胃動物:イヌ・ネコ・ウマ・ブタ・ラット。複胃(四胃):ウシ・ヒツジ・ヤギ・シカ・キリン(反芻動物)。ブタは胃に憩室(盲嚢)をもつ。ウマは胃に無腺胃部(盲嚢)があり嘔吐ができない。鳥は腺胃(化学的消化)と筋胃(機械的消化・砂嚢)の2部構成。

胃の構造は動物によって大きく異なる。

単胃動物は胃が1つの区画からなる動物で、イヌ・ネコ・ウマ・ブタ・ラットなどが含まれる。

ブタの胃は入口(噴門)付近に胃憩室(盲嚢)という袋状の突出部をもつことが特徴で、胃の容量が大きい。

ウマの胃も単胃だが、食道側に無腺胃部(噴門盲嚢)というほぼ平滑な部位があり、胃が膨満しても噴門括約筋が強く閉じるため嘔吐できず胃破裂のリスクがある。

反芻動物(ウシ・ヒツジ・ヤギ・シカ・キリンなど)は胃が4室に分かれた複胃(複室胃)をもつ。

第一胃(瘤胃・ルーメン):最大で微生物による発酵・セルロース分解が行われる。

第二胃(網胃・ハチノス):ハニカム状の粘膜で第一胃と連絡し、異物が溜まりやすい(金属異物症)。

第三胃(重弁胃・ヨマギ):葉状の粘膜で水分を吸収・濃縮する。

第四胃(皺胃・ギアラ):唯一の真の分泌胃で消化酵素・塩酸を分泌して化学的消化を行う。

鳥類の胃は腺胃(プロベントリクルス)と筋胃(ベントリクルス・砂嚢)の2部構成である。

腺胃は消化酵素・胃酸を分泌する化学的消化の場、筋胃は厚い筋肉壁と取り込んだ砂・小石を使って食物を機械的にすりつぶす場(砂嚢)である。

6比較解剖②:胆嚢のない動物・結腸の形態差・盲腸

胆嚢がない動物:ウマ・ラット(肝臓から胆管が直接十二指腸に開口)。結腸の形態:牛=円盤結腸、豚=円錐結腸、馬=二重袋状結腸。盲腸が著しく発達しているのはウマで、草食による繊維の発酵消化を担う。

胆嚢は肝臓で作られた胆汁を貯蔵・濃縮して必要時に十二指腸へ放出する器官だが、もたない動物もある。

ウマとラットには胆嚢がなく、肝臓から胆管が直接十二指腸に開口して胆汁を継続的に放出している。

結腸の形態は動物種によって大きく異なる。

ウシは結腸が渦巻き状に平らに巻いた円盤結腸、ブタは円錐形に巻いた円錐結腸(コーン型)、ウマは結腸が二重の袋状になった巨大な二重袋状結腸(大結腸)をもつ。

特にウマの盲腸は馬のお腹の右腹部を大きく占め、草の繊維(セルロース)を微生物発酵によって分解する巨大発酵槽として機能し、著しく発達している。

これらの構造の違いは比較解剖学・比較動物学の出題頻度が高いため、動物種と特徴をセットで覚えておく。

7小腸の運動様式と巨大食道症

小腸の運動:蠕動運動(内容物を前進させる)・分節運動(収縮と弛緩を繰り返し混合)・振り子運動(腸管が伸縮して混合)。巨大食道症は食道筋層の蠕動不全で食物が停滞し、吐出(受動的)・誤嚥性肺炎・栄養不良を起こす。

小腸は内容物を消化・吸収しながら大腸へ送るため、複数の運動様式を組み合わせて使う。

蠕動運動は、腸管が波のように収縮することで内容物を口から肛門方向へ前進させる運動である。

分節運動は、腸管の各部位が交互に収縮・弛緩を繰り返し、内容物を切り刻むように混ぜ合わせながら消化液と接触させる運動で、吸収を助ける。

振り子運動は、腸管が伸縮することで内容物を混ぜ合わせる補助的な運動である。

これら3つが同時・連続的に行われ、消化・吸収が効率よく進む。

巨大食道症(巨大食道・メガエソファガス)は、食道の筋層の蠕動運動が障害されて食物が食道内に停滞・拡張する疾患である。

嘔吐ではなく、吐出(食道内容物が重力で受動的に口から出る)が特徴で、未消化の食物が食道から逆流する。

最大の合併症は誤嚥性肺炎(吐出物が気道に入ること)で、命に関わる。

管理では、食事を高い場所から与えて重力を利用して食道通過を助けるベイリーチェア(犬用の食事補助椅子)が有名である。

原因は先天性・後天性(重症筋無力症・アジソン病・神経疾患など)があり、根本原因の治療が重要である。

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