甲状腺の病気(亢進症・低下症)

全身の代謝を調節する甲状腺ホルモン(T4サイロキシン・T3トリヨードサイロニン)と、それを促す下垂体のTSHの関係を押さえたうえで、2つの代表的な病気を学ぶ。ネコの高齢で多い甲状腺機能亢進症(ホルモン過剰で代謝が高まりすぎ、食欲はあるのにやせる。大半は良性。チアマゾールやヨウ素制限食y/dで治療し、隠れた腎臓病や高血圧による網膜剥離に注意)と、イヌに多い甲状腺機能低下症(代謝が落ち、左右対称性の脱毛・寒がり・体重増加・徐脈・悲劇的顔貌。合成T4で治療)を、文章と確認問題で理解する。

1甲状腺ホルモンの基礎(T4・T3 と TSH)

甲状腺は全身の代謝(新陳代謝)を高めるホルモンを出す臓器。主なホルモンはT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)で、材料にヨウ素(ヨード)が必要。脳の下垂体から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)が、甲状腺にホルモンを出すよう促す。

全身の代謝を高める甲状腺ホルモンが過剰になる甲状腺機能亢進症(高齢ネコに多い)と、不足する甲状腺機能低下症(イヌに多い)を、好発動物・代謝・主な症状で対比した表。

甲状腺は、のどのあたりにある小さな臓器で、全身の代謝(新陳代謝)の速さを調節するホルモンを分泌する。

甲状腺ホルモンには、主にT4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)の2つがあり、これらを作るには食事からとるヨウ素(ヨード)が材料として必要である。

甲状腺ホルモンは、いわば体のアクセルのような働きをもち、エネルギーの消費・熱の産生・心拍などを高める。

甲状腺の働きは、脳の下垂体から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)によってコントロールされている。

TSHが甲状腺を刺激してホルモンを出させ、血中の甲状腺ホルモンが増えると今度はTSHが抑えられる、という仕組み(フィードバック)でバランスが保たれている。

このホルモンが過剰になりすぎるのが甲状腺機能亢進症、足りなくなるのが甲状腺機能低下症である。

2甲状腺機能亢進症とは(ネコに多い)

甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝が高まりすぎる病気。高齢のネコでよくみられ、原因ははっきりしないことが多い。大半は甲状腺の良性の変化(結節性過形成や腺腫)によるもので、悪性(腺癌)は少ない。イヌではまれで、ネコでは逆に低下症がほとんどみられない。

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され、全身の代謝(新陳代謝)が高まりすぎた状態である。

代謝が上がりすぎると、熱の産生が増え、エネルギーがどんどん使われ、心臓をはじめ全身の臓器に過剰な負荷がかかる。

高齢のネコで非常によくみられる病気で、なぜ起こるのかはっきりした原因は分かっていないことが多い。

ネコでは甲状腺が肥大しやすく、その原因の大半は良性の変化(結節性過形成や腺腫)で、悪性の腫瘍(腺癌)は少ない。

一方、イヌでは甲状腺機能亢進症はまれで、内分泌としてはむしろ甲状腺機能低下症が多い。

ネコでは逆に甲状腺機能低下症が自然に起こることはほとんどなく、ネコの甲状腺の病気といえばまず亢進症を考える。

3甲状腺機能亢進症の症状

代謝が高まりすぎるため、よく食べる(食欲亢進)のに体重は減る、というのが特徴的。落ち着きがなく活動的・興奮しやすい、多飲多尿(PU/PD)、嘔吐や下痢、毛づやの悪化、心拍が速い(頻脈)・心雑音などがみられる。進行すると全身が疲弊する。

甲状腺機能亢進症では、代謝が高まりすぎることでさまざまな症状が出る。

最も特徴的なのは、食欲が増してよく食べる(食欲亢進)のに、消費が上回るため体重が減っていくことである。

落ち着きがなく動き回る・興奮しやすい・鳴くことが増えるといった活動性の亢進や、多飲多尿(たくさん水を飲み、たくさん尿をする:PU/PD)もみられる。

消化管の動きが過剰になることで、嘔吐や下痢、軟便を起こすこともある。

代謝が上がって心臓が速く強く拍動するため、頻脈や心雑音がみられ、放置すると心臓に負担がかかる。

毛づやが悪くなる、被毛がボサボサになるなどの変化も多い。

代謝が上がりすぎた状態が続くと全身の臓器が疲弊し、進行すると食欲が逆に落ちて衰弱することもある。

4甲状腺機能亢進症の治療

内服薬は抗甲状腺薬のチアマゾール(メチマゾール)で、ホルモンの産生を抑える第一選択薬。療法食はホルモンの材料であるヨウ素を制限した食事(ヒルズ y/d)。外科手術で肥大した甲状腺を摘出する方法もあるが、摘出すると元に戻せない不可逆の治療である。放射性ヨウ素を使う治療もある。

甲状腺機能亢進症の治療には、いくつかの方法がある。

内服薬では、抗甲状腺薬のチアマゾール(メチマゾール、商品名メルカゾールなど)が第一選択で、甲状腺ホルモンが作られるのを抑える。

長期の維持治療に使えるが、飲み続ける必要がある。

療法食は、甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素(ヨード)を制限した食事で、ヒルズのy/dが知られる。

これだけを与える必要がある。

外科手術では、肥大した甲状腺そのものを摘出する。

ただし、摘出してしまうと元に戻せない不可逆的な治療であり、術後に甲状腺ホルモンが不足したり、近くにある上皮小体(副甲状腺)を傷つけて低カルシウム血症を起こしたりする合併症に注意が必要である。

そのほか、放射性ヨウ素を投与して異常な甲状腺組織だけを壊す治療もある(実施できる施設は限られる)。

どの治療でも、ホルモンが下がりすぎないよう定期的な血液検査で調整していく。

5亢進症で隠れる合併症(腎臓病・高血圧)

甲状腺機能亢進症では腎臓への血流(糸球体濾過量)が増えるため、腎数値が実際より低く出て、慢性腎臓病が隠れていることがある(マスクされた腎不全)。治療でホルモンを下げると腎臓病が表に出ることがある。また高血圧を合併しやすく、網膜剥離・網膜出血による突然の失明に注意。

甲状腺機能亢進症の治療では、隠れた合併症に注意する必要がある。

亢進症では代謝が上がって腎臓への血流が増え、腎臓のろ過量(糸球体濾過量・GFR)が一時的に増加する。

このため血液検査の腎数値が実際よりよく見えてしまい、もともとあった慢性腎臓病が隠されていることがある(「マスクされた腎不全」)。

治療でホルモンを正常に戻すと腎血流が減り、隠れていた慢性腎臓病(腎萎縮をともなうことも)が表に現れてくることがあるため、治療中は腎数値もあわせて見ていく。

また、甲状腺機能亢進症のネコは全身性の高血圧を合併しやすい。

血圧が高くなりすぎると、目の奥で網膜剥離や網膜出血(眼底出血)が起こり、突然目が見えなくなる(失明する)ことがある。

ほかにも高血圧は消化管や心臓・脳にも負担をかけるため、亢進症では血圧の測定や眼の評価も大切である。

6甲状腺機能低下症(イヌに多い)

甲状腺ホルモンが不足し、全身の代謝が落ちる病気。イヌの中年以降に多い。元気がなくなり寝てばかり・反応が鈍い、寒がる、食事量は変わらないのに体重が増える、左右対称性の脱毛や皮膚の乾燥・色素沈着、心拍が遅い(徐脈)、低体温。むくんで「悲劇的顔貌」とよばれる悲しそうな顔になる。重症では昏睡(粘液水腫性昏睡)に至ることも。治療は合成T4製剤の内服。

甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが不足して全身の代謝が落ちる病気で、イヌの中年以降によくみられる(ネコではまれ)。

代謝が落ちるため、元気がなくなって寝てばかりになる、動きたがらない、反応が鈍いといった活動性の低下がみられる。

熱の産生が減るので寒がるようになり、心拍数が遅くなり(徐脈)、体温が下がる(低体温)。

エネルギー消費が減るため、食事量は変わらなくても体重が増える(肥満傾向になる)。

皮膚では、体の左右対称性の脱毛(とくに体幹やしっぽ。

毛が抜けたしっぽは「ラットテイル」とよばれる)、皮膚の乾燥、色素沈着、皮膚炎・外耳炎の繰り返しなどがみられる。

顔がむくんで、いつも悲しそうに見える独特の表情になることがあり、「悲劇的顔貌(ひげきてきがんぼう)」とよばれる。

血液検査では高コレステロール血症などがみられることが多い。

重症になると、意識が低下して昏睡(粘液水腫性昏睡)に陥ることもある。

治療は、不足している甲状腺ホルモンを補う合成T4製剤(レボチロキシン)の内服で、血液検査をしながら量を調整する。

亢進症とは対照的に、足りない分を一生補っていく治療になる。

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