疾患別の食事療法(療法食)

療法食は、特定の病気の管理のために栄養組成を調整した食事で、獣医師の指示のもとで用いる。心疾患では心臓・血圧の負担を減らすためナトリウム(塩分)を制限する。慢性腎臓病では腎臓の負担を減らすためタンパク質とリンを制限する。肝疾患や門脈体循環シャントでは、アンモニアの発生を抑えるためタンパク質の量と質を調整する(高品質タンパク)。尿石症(ストルバイト)ではミネラル(マグネシウム・リンなど)を調整し尿pHを整えるとともに、ナトリウムをやや増やして飲水・尿量を増やし尿を薄める(尿希釈)。『どの病気で何を制限・調整するか』をセットで覚える。

1療法食とは

療法食は、特定の病気の管理・治療の補助のために、栄養組成(ナトリウム・タンパク質・リン・ミネラルなど)を調整した食事。一般のフードと違い、獣医師の指示・診断のもとで、対象の病気に合わせて選んで与えるのが原則。自己判断で長期に与えるのは適切でない。

代表的な疾患ごとに、療法食で主に制限・調整する栄養素とそのねらいを一覧にした。疾患によって『何を制限・調整するか』が異なる点を、セットで押さえる。

療法食(食事療法用の食事)とは、特定の病気の管理や治療の補助のために、栄養素の量やバランスを目的に合わせて調整した食事のことである。

一般の総合栄養食が『健康な動物の維持』を目的とするのに対し、療法食は『ある病気をもつ動物の状態を整える』ために、ナトリウム・タンパク質・リン・特定のミネラルなどを増減してつくられている。

そのため、療法食は獣医師の診断・指示のもとで、対象の病気に合ったものを選んで使うのが原則で、別の病気の動物や健康な動物に自己判断で長期に与えるのは適切でない。

動物看護師は、療法食の目的を理解し、飼い主に与え方や切り替え方(少しずつ混ぜて移行する)、続けることの大切さを説明する役割を担う。

以下、代表的な疾患でどの栄養素を制限・調整するかを整理する。

2心疾患=ナトリウム(塩分)制限

心臓病の療法食は『ナトリウム(塩分)の制限』が基本。塩分をとりすぎると体に水分がたまり、循環血液量が増えて心臓の負担や血圧が上がり、腹水・浮腫・肺水腫などにつながる。ナトリウムを抑えることで、心臓への負担と、むくみ・体液貯留を軽くする。

心臓病(心不全など)の食事管理で最も重要なのが『ナトリウム(塩分)の制限』である。

ナトリウムを多くとると、体は水分をため込みやすくなり、循環する血液量が増える。

これが心臓のポンプの負担や血圧の上昇につながり、腹水・浮腫(むくみ)・肺水腫といった、心機能低下に伴う症状を悪化させる。

そこで心臓病の療法食は、ナトリウムの含有量を抑え、心臓の負担と体液の貯留を軽くするようにつくられている。

どのメーカーの心臓病用フードにも共通する特徴が『ナトリウム制限』である。

なお、人がおいしいと感じる味付けの食べ物やおやつは塩分が多いことがあり、心臓病の動物には与えないよう飼い主に説明することも大切である。

3慢性腎臓病=タンパク質・リンの制限

慢性腎臓病(CKD)の療法食は『タンパク質』と『リン』の制限が基本。タンパク質を制限すると、その代謝で生じる老廃物(尿素など)が減り、弱った腎臓の負担と尿毒症の症状をやわらげる。リンの制限は腎臓病の進行を抑えるのに重要。良質なタンパク質を適量に調整する。

慢性腎臓病(CKD)の食事管理では、『タンパク質』と『リン』の制限が中心になる。

タンパク質が代謝されると、尿素やクレアチニンなどの老廃物(窒素老廃物)が生じ、本来は腎臓から排泄される。

腎機能が低下すると、これらが体にたまって尿毒症の症状(食欲不振・嘔吐など)を起こす。

タンパク質を適切に制限すると、老廃物の発生が減り、腎臓の負担と症状がやわらぐ。

また、リンの摂取制限は、腎臓病の進行を遅らせるうえで特に重要とされる。

ただしタンパク質を制限しすぎると栄養不良になるため、『良質(高品質)なタンパク質を適量に』調整するのが療法食の考え方である。

4肝疾患・門脈体循環シャント=タンパク質の調整

肝疾患や門脈体循環シャントでは、タンパク質の『量と質』を調整する。タンパク質の代謝で生じるアンモニアは、本来肝臓で尿素に変えられるが、肝機能低下やシャントではアンモニアが解毒されず血中にたまり、肝性脳症(神経症状)を起こす。そのため、消化のよい良質なタンパク質を、症状に応じて控えめに与える。

肝臓の病気や『門脈体循環シャント(門脈シャント)』では、タンパク質の量と質の調整が重要になる。

門脈体循環シャントとは、本来は腸からの血液(栄養やアンモニアを含む)を肝臓に運んで処理させる血管(門脈)が、肝臓を通らずに全身の循環へ短絡(バイパス)してしまう異常である。

タンパク質が代謝されるとアンモニア(有害)が生じ、ふつうは肝臓で無害な尿素に変えられる。

しかし肝機能の低下や門脈シャントでは、アンモニアが解毒されないまま血中にたまり、脳に作用して『肝性脳症(ふらつき・よだれ・けいれん・意識障害など)』を起こす。

そこで肝疾患・シャントの療法食では、アンモニアの発生を抑えるために、消化のよい良質なタンパク質を、症状に応じて控えめ(中等度の制限)に与える。

極端に減らすのではなく、質と量のバランスをとるのがポイントである。

5尿石症(ストルバイト)=ミネラル調整と尿希釈

ストルバイト(リン酸アンモニウムマグネシウム)結石の療法食は、原料となるミネラル(マグネシウム・リンなど)を調整し、尿pHを弱酸性に保って結石を溶かす・できにくくする。あわせて、ナトリウムをやや増やして飲水量・尿量を増やし、尿を薄める(尿希釈)ことで結石の形成を防ぐ。

尿石症(尿路結石)のうち、イヌ・ネコで多い『ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)』の療法食では、次の工夫がされている。

①結石の材料となるミネラル(マグネシウム・リン・アンモニウムなど)の量を調整して、結石ができにくくする。

②尿のpHを弱酸性に保つ(ストルバイトはアルカリ性の尿でできやすく、酸性に傾けると溶けやすい)。

③ナトリウム(塩分)をやや多めにして飲水量を増やし、尿量を増やして尿を薄める(尿希釈)。

尿が薄く・量が多いほど、結石の材料が濃縮されにくく、結晶ができにくくなる。

このように、尿石症の療法食では『ミネラル調整+尿pH調整+尿希釈(ナトリウムで飲水促進)』を組み合わせる。

※同じ尿石でも、シュウ酸カルシウム結石は溶かすことができず、別の食事管理が必要になるなど、結石の種類によって対応が異なる点にも注意する。

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