分子標的薬と抗がん剤治療の支持療法

従来の細胞傷害性抗がん剤に対し、がん細胞の特定の分子(増殖スイッチ)をねらい撃ちして副作用を抑えるのが分子標的薬。犬の肥満細胞腫に承認されたトセラニブ(パラディア)やイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬を学ぶ。あわせて、骨髄抑制が強い薬・猫に禁忌の薬の整理、嘔吐・下痢への支持療法(制吐薬・整腸)、抗がん剤の安全な取り扱いを整理する。

1分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害薬)とは

分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の分子だけをねらって働きを止める薬。正常細胞への影響が比較的少なく、従来の抗がん剤より副作用が出にくいのが特徴。代表がチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)で、肥満細胞腫のKIT蛋白の異常な『増殖スイッチ』をオフにする。

従来の細胞傷害性抗がん剤は分裂の盛んな細胞を広く攻撃して正常細胞も傷つけるのに対し、分子標的薬(TKI)はがん細胞のKIT蛋白などの増殖スイッチだけをねらい撃ちするため副作用が出にくい。ただし副作用がゼロというわけではない。

従来の細胞傷害性抗がん剤が、分裂の盛んな細胞を広く攻撃する(だから正常細胞も傷つく)のに対し、分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる『特定の分子』だけをねらって、その働きを止める薬である。

ねらい撃ちするぶん、正常な細胞への影響が比較的少なく、一般的な抗がん剤より副作用が出る可能性が低いのが特徴である。

代表的な分子標的薬が、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)である。

たとえば肥満細胞腫では、KIT(キット)という蛋白の異常が腫瘍の『増殖スイッチ』を入れっぱなしにしていることがあり、TKIはこのスイッチをオフにして腫瘍の増殖を抑える。

ただし、『副作用が出にくい』であって『まったく無い』わけではなく、消化器症状(嘔吐・下痢・食欲不振)などの副作用は起こりうるため、観察は必要である。

2トセラニブ(パラディア)とイマチニブ

トセラニブ(商品名パラディア)は、日本で犬の肥満細胞腫(皮膚型)の治療薬として承認された分子標的薬。肛門嚢アポクリン腺癌・悪性黒色腫・移行上皮癌などにも使われる。イマチニブ(グリベック)も肥満細胞腫やGIST(消化管間質腫瘍)に用いられるTKI。

代表的な分子標的薬を挙げる。

トセラニブ(商品名パラディア)は、日本で犬用の分子標的薬として承認された薬で、もともと犬の再発した肥満細胞腫(皮膚型)の治療薬として開発された。

現在は、肛門嚢アポクリン腺癌、悪性黒色腫(メラノーマ)、移行上皮癌、多発性骨髄腫など、さまざまな腫瘍にも使われている。

イマチニブ(商品名グリベックなど)も、チロシンキナーゼ阻害薬の仲間で、肥満細胞腫や、消化管間質腫瘍(GIST)などに用いられる。

これらTKIは、KIT蛋白などの異常な増殖シグナルを止めることで効果を発揮する。

トセラニブは飲み薬(経口)で、消化器症状(とくに吐き気)が出ることがあるため、食後に与える・吐き気止めを併用するなどの工夫がされる。

分子標的薬でも、定期的に血球数・肝腎機能・血圧・消化器症状などをチェックしながら使う。

3骨髄抑制が強い薬・猫に禁忌の薬の整理

骨髄抑制が強い抗がん剤の代表は、ロムスチン(CCNU)・カルボプラチン・ドキソルビシン。猫に禁忌(使ってはいけない)の代表は、シスプラチン(致死的肺水腫)・5-FU(フルオロウラシル、神経毒性)。安全管理の要点として覚えておく。

抗がん剤を安全に使うために、とくに注意すべき2つのポイントを整理する。

1つ目は、骨髄抑制が強い薬である。

骨髄抑制が強いと、白血球(好中球)が大きく減って感染症のリスクが高まる。

骨髄抑制が強い代表的な薬は、ロムスチン(CCNU)、カルボプラチン、ドキソルビシンである。

これらを使ったあとは、血球数の確認をとくにしっかり行う。

2つ目は、猫に禁忌の薬である。

動物種によって薬の安全性が異なり、犬では使えても猫では危険な薬がある。

猫に禁忌の代表が、シスプラチン(致死的な肺水腫を起こす)と、5-FU(フルオロウラシル、重い神経毒性を起こす)である。

『骨髄抑制が強い=ロムスチン・カルボプラチン・ドキソルビシン』『猫に禁忌=シスプラチン・5-FU』は、試験でも実務でも重要なポイントとして押さえておく。

4副作用への支持療法(制吐・整腸)

抗がん剤の副作用には、症状をやわらげる支持療法を行う。嘔吐・吐き気には制吐薬のマロピタント(商品名セレニア)やメトクロプラミドを使う。下痢には、メトロニダゾール(フラジール)などを用いる。骨髄抑制で感染リスクが高いときは抗菌薬や感染対策も行う。

抗がん剤の副作用に対しては、症状をやわらげて生活の質を保つための『支持療法』が大切である。

嘔吐・吐き気に対しては、制吐薬を用いる。

代表が、マロピタント(商品名セレニア)で、犬・猫の嘔吐に広く使われる。

ほかに、メトクロプラミドなども制吐・消化管運動の改善に用いられる。

下痢に対しては、整腸や抗菌の目的でメトロニダゾール(商品名フラジールなど)などを用いることがある。

骨髄抑制で白血球が減って感染しやすくなっているときは、必要に応じて抗菌薬を使い、衛生管理(清潔な環境・口腔ケアなど)で感染を防ぐ。

また、食欲不振には食事の工夫や食欲増進、脱水には輸液を行うなど、その動物の状態に合わせて支持療法を組み合わせる。

支持療法を上手に行うことで、副作用を抑えながら治療を続けやすくなる。

5抗がん剤の取り扱いと動物看護

抗がん剤は、扱う人(スタッフ)の被ばく(曝露)にも注意が必要で、手袋・ガウンなどの防護具を着け、こぼさない・吸い込まない・皮膚に付けないようにする。看護では、確実な静脈内投与の介助、血管外漏出の早期発見、副作用(骨髄抑制・嘔吐など)の観察、飼い主への説明が役割。

抗がん剤は、患者の動物だけでなく、扱う人(獣医療スタッフ)にとっても有害なため、取り扱い(曝露対策)に注意が必要である。

調製・投与・廃棄の際は、手袋・ガウン・必要に応じてマスク・ゴーグルなどの防護具を着け、薬をこぼさない・吸い込まない・皮膚や粘膜に付けないようにする。

投与された動物の排泄物にも薬が含まれるため、処理に配慮する。

投与の場面では、動物看護師は、起壊死性の薬を確実に静脈内へ入れる介助をし、注射中・注射後に血管外漏出(腫れ・痛み・漏れ)が起きていないかをよく観察する。

投与後は、骨髄抑制(元気消失・発熱は感染のサイン)、嘔吐・下痢・食欲不振などの副作用を観察し、異常を獣医師に報告する。

出血性膀胱炎を起こす薬では排尿・尿の色にも注意する。

飼い主には、自宅での観察ポイント(元気・食欲・嘔吐下痢・発熱の有無)、次回の検査・投与の時期、排泄物の扱いの注意などを伝える。

安全な取り扱いと、きめ細かな観察・支持療法が、抗がん剤治療を支える動物看護師の重要な役割である。

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