生殖器の病気(各論)

子宮蓄膿症・乳腺腫瘍・前立腺肥大・潜在精巣など、雌雄それぞれの生殖器疾患を学ぶ。子宮蓄膿症は命に関わる緊急疾患であり、早期不妊手術による予防の考え方も重要。雄の疾患では去勢手術が治療・予防の両面で意味をもつ。

1生殖器疾患のサインと概要

雌では陰部からの異常分泌物・腹部膨満・乳腺のしこり、雄では包皮からの分泌・排尿異常・精巣の左右差などが生殖器疾患のサイン。不妊・去勢手術によって多くの生殖器疾患を予防できる。

雌・雄それぞれの代表的な生殖器疾患と主なサインを整理した表。子宮蓄膿症は開放性・閉鎖性があり緊急を要し、多くの疾患は不妊手術(雌)・去勢手術(雄)で予防できる。

生殖器の病気は雌・雄で異なるが、共通して見られるサインを把握しておくと早期発見につながる。

雌では、陰部から通常と異なる分泌物(膿・血液・粘液)が出る、おなかが大きくなる、乳腺にしこりがある、元気や食欲がない、多飲多尿などが生殖器疾患のサインとなる。

雄では、包皮から分泌物が出る、排尿困難や頻尿、精巣の大きさ・硬さの左右差、陰嚢の腫れなどが手がかりになる。

重要なのは、多くの生殖器疾患が不妊手術(雌)・去勢手術(雄)によって予防できるという点である。

早期に実施するほど予防効果が高い疾患が多く、動物看護師としても飼い主へのアドバイスが求められる。

2子宮蓄膿症

子宮に膿がたまる病気で、未避妊の中高齢雌に多い。開放性(膿が陰部から出る)と閉鎖性(出ない)があり、閉鎖性は重症化しやすい。多飲多尿・元気食欲低下・腹部膨満がサイン。緊急の外科手術(卵巣子宮摘出)が必要。

子宮蓄膿症は、子宮の中に膿がたまる病気で、未避妊の中年齢以降の雌犬・雌猫に多く発生する。

発情後の黄体期にプロゲステロン(黄体ホルモン)が子宮に作用し続けることで、細菌が増殖しやすい環境になることが原因とされる。

陰部から膿が排出される開放性と、子宮頸が閉じて膿が外に出ない閉鎖性があり、閉鎖性は膿がたまり続けてより急激に重症化しやすい。

主なサインは、多飲多尿(腎臓へのダメージによる)、元気・食欲の低下、嘔吐、腹部の張り・膨満、陰部からの分泌物(開放性)などである。

血液検査では白血球増多や腎機能低下がみられ、超音波で子宮の拡張を確認する。

原因菌の多くは大腸菌で、細菌が出す内毒素(エンドトキシン)によりエンドトキシンショックや腎障害を起こし、重篤化することがある。

治療の基本は外科手術(卵巣子宮摘出)で、内科治療では再発リスクが高い。

繁殖を希望する若い個体などでは、黄体を退行させて子宮を収縮させ膿を排出させるプロスタグランジン(PGF2α)製剤による内科治療が選択されることもある(主に開放性が対象)。

進行すると腹膜炎・敗血症・多臓器不全に至るため、速やかな外科対応が必要となる。

若いうちに避妊手術を行うことで予防できる。

3乳腺腫瘍・乳腺炎

乳腺腫瘍はイヌで最多の腫瘍の一つ。約50%が悪性。1回目の発情前に避妊すると発生リスクが大幅に下がる。乳腺炎は授乳中の雌に起こり、乳腺の腫れ・熱・痛みがサイン。

乳腺腫瘍はイヌでは最も多い腫瘍の一つで、未避妊または遅い時期に避妊した雌犬に多い。

イヌの乳腺腫瘍の約半数は悪性であり、転移する可能性があるため、早期発見・早期治療が重要である。

発生に性ホルモンが大きく関係しており、1回目の発情前に避妊手術を行うとリスクがほぼゼロになるとされる。

2回目の発情後でも効果はあるが低下する。

ネコの乳腺腫瘍は80〜90%が悪性で、比較的若い年齢でも発生しうる。

乳腺にしこりを見つけたら早めに受診し、針吸引や切除による病理検査で良悪性を確認する。

一方、乳腺炎は出産・授乳中の雌に細菌感染などで起こる炎症で、乳腺の腫れ・発赤・熱感・痛み、発熱などがサインである。

授乳中の子への影響を考慮しながら抗菌薬での治療を行う。

4偽妊娠(正常と病的)とプロラクチン

偽妊娠は、妊娠していない雌が発情休止期(黄体期)に妊娠に似た変化を示すもの。黄体期のプロゲステロンが低下するころに下垂体前葉からプロラクチンが多く分泌され、乳腺の発達・乳汁分泌や、巣作り・哺育などの母性行動、神経質・攻撃的になるなどの行動変化が現れる。多くは自然に回復し、避妊で再発を防げる。

偽妊娠(偽妊娠症候群)は、妊娠していない雌が、発情のあとの発情休止期(黄体期)に妊娠に似た体・行動の変化を示す状態である。

イヌでは黄体期のホルモン変化が妊娠時と似ているため、程度の差はあれ多くの雌で起こりうる正常な範囲の反応であり、症状が目立たないものは生理的なものと考えられる。

メカニズムとしては、黄体(卵巣)から出るプロゲステロンが分泌され、それが低下するころに、下垂体前葉からプロラクチン(乳腺を刺激するホルモン)が多く分泌されることが関与している。

プロラクチンの作用により、乳腺の発達・乳汁分泌が起こり、巣作りやおもちゃを仔のようにかわいがる哺育行動、さらに警戒心が強くなる・攻撃的になるといった行動の変化(病的に目立つ偽妊娠)が現れる。

多くは数週間で自然に回復するが、症状が強い場合はプロラクチンを抑える薬(カベルゴリンなどのドパミン作動薬)が用いられる。

避妊手術によって再発を防ぐことができる。

5雄の生殖器疾患(前立腺・精巣)

前立腺肥大は未去勢の中高齢雄犬に多く、排便困難・血尿・尿が細くなるなどのサイン。去勢手術で改善する。潜在精巣(停留精巣)は精巣が陰嚢まで降りない状態で、精巣腫瘍リスクが高い。去勢が推奨される。

前立腺肥大(良性前立腺過形成)は、未去勢の中年齢以降の雄犬によく見られる。

性ホルモン(アンドロゲン)の持続的な刺激によって前立腺が大きくなり、直腸や尿道を圧迫することで排便困難・排尿困難・血尿・便が扁平になる・尿が細くなるなどの症状が出る。

去勢手術によってアンドロゲンの刺激がなくなると、前立腺は縮小し症状が改善する。

前立腺炎は、細菌感染などによる前立腺の炎症で、発熱・元気消失・排尿排便の異常・腰の痛みなどがサインとなる。

抗菌薬での治療と去勢手術が行われる。

潜在精巣(停留精巣・陰睾)は、本来であれば出生後に陰嚢へ降りてくる精巣が、鼠径部や腹腔内に留まってしまう状態である。

腹腔内の温度は精巣の正常な機能に適さず、精子形成が障害される。

また、正常位置の精巣と比べて精巣腫瘍のリスクが数倍高くなるため、早期の去勢手術が推奨される。

6難産・腟脱・偽妊娠・犬ブルセラ症と看護

難産は胎子が産道を通れない状態で、カルシウム不足による子宮無力症も原因になる。腟脱は発情期に腟粘膜が脱出する。偽妊娠は発情後に妊娠していないのに乳汁分泌などを示す。犬ブルセラ症は人獣共通感染症で流産・不妊が特徴。

難産は、胎子が大きすぎる・産道が狭い・子宮収縮が弱いなどの理由で分娩が進まない状態である。

子宮収縮不全(子宮無力症)はカルシウム欠乏や疲弊が原因になることがあり、オキシトシンやカルシウム補給などの処置が行われる。

長時間の難産は胎子・母体ともに危険であり、帝王切開が必要になることもある。

腟脱は、発情期にエストロゲンの影響で腟粘膜が外陰部から脱出する状態で、赤い組織が外に見える。

避妊手術・整復と保護で対応する。

偽妊娠(偽妊娠症候群)は、発情後の黄体期に妊娠していないにもかかわらず、乳汁分泌・巣作り行動・哺育行動などの母性行動が現れる状態である。

多くは自然に回復するが、避妊手術で再発を防ぐことができる。

犬ブルセラ症はブルセラ・カニス(Brucella canis)による感染症で、流産・死産・不妊・精巣炎などを引き起こす。

人にも感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)であるため、感染動物の取り扱い時には注意が必要である。

生殖器疾患の看護では、陰部からの分泌物の量・色・においを記録し、体温・食欲・水飲み量の変化を観察する。

術後は傷口の管理と舐め防止(エリザベスカラー)が重要である。

理解できたら腕試し!
このテーマの確認テスト