心原性肺水腫と心不全治療

高齢の小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)では、僧帽弁が閉じきらず左心室から左心房へ血液が逆流する。これが進むと左心房・肺静脈の圧が上がり、肺に水がしみ出す『心原性肺水腫』が起こる。逆流性心雑音や胸部X線での心拡大などの所見、ピモベンダン(ベトメディン)・フロセミドを中心とした治療と看護を学ぶ。

1僧帽弁閉鎖不全症から心原性肺水腫へ

心原性肺水腫の代表的な原因が、慢性の僧帽弁閉鎖不全症(MMVD)。僧帽弁が閉じきらず左心室から左心房へ血液が逆流し、左心房・肺静脈の圧が上がって肺に水がしみ出す。左心系に負担がかかる病気。

僧帽弁閉鎖不全症で左心室から左心房へ血液が逆流すると、左心房・肺静脈の圧が上がってうっ血し、肺の毛細血管から水がしみ出して心原性肺水腫となる。左心系に負担がかかる流れを示した。

肺水腫とは、肺の中(肺胞や間質)に水分がしみ出してたまり、ガス交換ができなくなる状態である。

心臓が原因で起こるものを『心原性肺水腫』という。

イヌでの代表的な原因が、慢性心臓弁膜症のひとつである僧帽弁閉鎖不全症(MMVD:僧帽弁粘液腫様変性)で、高齢の小型犬(チワワ・マルチーズ・キャバリアなど)に多い。

僧帽弁は左心房と左心室の間にある弁で、本来は左心室が収縮するときに閉じて血液が逆流しないようにしている。

この弁が変性して閉じきらなくなると、左心室から左心房へ血液が逆流する(僧帽弁逆流)。

逆流が続くと左心房に血液がたまって圧が上がり、その上流にある肺静脈・肺の毛細血管にも圧がかかって、血液中の水分が肺へしみ出す。

これが心原性肺水腫である。

このように僧帽弁閉鎖不全症は、左心房・左心室という『左心系』に負担をかける病気であることがポイントである。

2症状と心雑音

初期は無症状で、左心尖部に収縮期の逆流性心雑音だけが聞かれることが多い。進行すると咳・運動を嫌がる(運動不耐性)・呼吸が速い/苦しそう(努力性呼吸)などがみられ、肺水腫になると安静時でも呼吸困難を示す。

僧帽弁閉鎖不全症は、初期には目立った症状がなく、健康診断などで偶然みつかる心雑音だけのことが多い。

聴診では、左の心尖部(胸の左下あたり)で、心臓が収縮するときに血液が逆流することによる『収縮期逆流性心雑音』が聞かれる。

逆流が強くなるほど雑音も大きくなる傾向がある。

進行すると、咳が出る、すぐ疲れて運動を嫌がる(運動不耐性)、呼吸が速い・浅い、横になるのを嫌がるといった症状が現れる。

肺水腫を起こすと、安静にしていても呼吸が速く苦しそうになり(努力性呼吸)、口を開けて呼吸する、舌や歯ぐきが青紫になる(チアノーゼ)、泡状の液を吐くなど、命に関わる状態になる。

急に呼吸が苦しくなった場合は、心原性肺水腫を疑って緊急対応が必要である。

3診断(聴診・胸部X線・心エコー)

診断は、聴診で心雑音をとらえ、胸部X線で心拡大(心陰影の拡大)や肺野が白くなる肺水腫像を確認し、心エコーで逆流や心臓の構造・機能を評価する。X線で心臓が大きくなっているかどうかが重要な手がかり。

診断はまず聴診から始まり、左心尖部の収縮期逆流性心雑音をとらえることが手がかりになる。

胸部X線(レントゲン)撮影では、左心房・左心室の拡大による心陰影の拡大(心拡大)を評価する。

心臓の大きさは椎骨の長さを基準に数える指標(VHS:椎骨心臓スケール)などで客観的に判断する。

肺水腫を起こしていると、本来は黒く写る肺の領域(肺野)が、水分のために白っぽく写る。

とくに肺門部周囲が白くなるのが心原性肺水腫の典型像である。

心エコー(超音波)検査では、僧帽弁の逆流の程度や、左心房・左心室の大きさ、心臓の動き(収縮力)を直接評価でき、確定診断と重症度判定に役立つ。

これらを組み合わせ、『心雑音+心拡大+肺野の白さ』がそろえば、心原性肺水腫として治療を急ぐ。

4治療(ピモベンダンとフロセミド)

心不全治療の柱は、強心・血管拡張作用をもつピモベンダン(商品名ベトメディン)と、肺の水を尿として抜くループ利尿薬フロセミド。急性肺水腫では酸素療法を併用し、フロセミドで速やかに水を抜く。ACE阻害薬なども用いる。

心原性肺水腫・左心不全の治療では、薬で心臓の働きを助け、肺にたまった水を抜くことが中心になる。

ピモベンダン(商品名ベトメディンなど)は、心臓の収縮力を高める強心作用と、血管を広げて心臓の負担を減らす血管拡張作用を併せもつ薬で、僧帽弁閉鎖不全症による心不全の進行を遅らせ、生存期間を延ばすことが報告されている。

フロセミドは、腎臓のヘンレループに作用するループ利尿薬で、尿として体内の余分な水分を排出し、肺にたまった水を抜いて呼吸を楽にする。

急性の肺水腫ではまずフロセミドで水を抜くことが優先される。

急性期には、これらに加えて酸素室・酸素マスクによる酸素療法、安静、必要に応じて血管拡張薬や鎮静などを併用し、入院での集中治療を行う。

慢性期にはピモベンダン・利尿薬・ACE阻害薬などを継続し、腎臓の数値や心臓の状態をこまめに再評価しながら管理する。

5心不全の動物看護

看護では、過度な運動・興奮・暑さを避けて心臓の負担を減らし、呼吸数(とくに安静時・睡眠時呼吸数)・呼吸様式・粘膜色・体重を観察する。利尿薬使用中は脱水や腎機能、飲水量・尿量にも注意し、投薬の継続と異常の早期発見を支える。

心不全の動物看護では、心臓に余分な負担をかけないことが基本となる。

激しい運動・過度な興奮・暑い環境を避け、安静を保てるよう環境を整える。

観察では、安静時や睡眠時の1分間の呼吸数(増加は肺水腫の再発サイン)、呼吸が苦しそうでないか(努力性呼吸)、舌や歯ぐきの色(チアノーゼの有無)、活動性、体重の変化を継続的にチェックし、異常があれば獣医師に報告する。

フロセミドなどの利尿薬を使っている間は、水分が抜けすぎると脱水や腎機能の悪化を招くため、飲水量・尿量・元気・食欲にも注意する。

薬は自己判断で中断すると心不全が再び悪化するため、飼い主には決められた量・回数を続けることの大切さを伝える。

塩分の多いおやつを控えること、呼吸が速い・苦しそう・ぐったりするなどの異変があればすぐ受診することなど、生活上の指導を行うのも動物看護師の役割である。

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