神経学的検査(姿勢反応と脊髄反射)

神経の異常がどこにあるかを推定する神経学的検査を学ぶ。意識状態・精神状態・行動・姿勢・歩様といった全体の観察に加え、足の甲を地面につけて戻すか見る固有位置感覚(ナックリング)、目隠しして台に足を乗せ直すか見る触覚性踏み直り、片足で支えてケンケンできるか見る跳び直り、横にして起き上がるか見る立ち直りなどの姿勢反応、そして指をつまむと肢を引っ込める屈曲反射、膝の腱を叩くと膝が伸びる膝蓋腱反射、橈側手根伸筋反射、背中の皮膚をつまむとピクッと動く皮筋反射といった脊髄反射を、文章と確認問題で理解する。反射の低下・消失は、その分節・神経の異常を示し、病変部位の特定に役立つ。

1神経学的検査の組み立て

神経学的検査は、神経のどこに異常があるか(病変部位)を推定するために行う。意識状態、精神状態・行動、姿勢、歩様(歩き方)といった全体の観察に始まり、姿勢反応、脊髄反射、脳神経、感覚(痛覚)などを順に調べる。1か所の検査だけで判断せず、組み合わせて総合的に評価する。

神経学的検査は、全体の観察から始めて姿勢反応・脊髄反射・脳神経・感覚(痛覚)を順に調べる。各検査で何を見るかと、経路が決まっているため所見の組み合わせで病変部位をしぼり込めることを整理した図。

神経学的検査は、神経の異常があるかどうかだけでなく、『どこに(脳・脊髄のどの高さに)異常があるか』を推定するために行う検査である。

まず、意識状態(はっきりしている/ぼんやりしている/昏睡など)、精神状態や行動の変化、姿勢(首のかしげ・体の傾きなど)、歩様(歩き方・ふらつき・引きずりなど)を全体として観察する。

次に、体の位置を正しく保とうとする反応をみる『姿勢反応』、脊髄を介して起こる『脊髄反射』、顔まわりの神経をみる『脳神経の検査』、痛みの感じ方をみる『感覚(痛覚)の検査』などを順に行う。

それぞれの検査は、関係する神経の通り道(脊髄の分節や末梢神経)が決まっている。

そのため、どの検査が低下・消失しているかを組み合わせると、異常のある場所をしぼり込める。

1つの所見だけで決めつけず、複数の検査を組み合わせて総合的に判断することが大切である。

2姿勢反応① 固有位置感覚(ナックリング)

固有位置感覚(プロプリオセプション)は、自分の手足がいまどんな位置にあるかを感じ取る感覚。検査では足の甲(足背)を地面につけた状態(ナックリング)にして、動物がすぐに正しい向きに戻すかをみる。すぐ戻せば正常、戻さない・遅れるなら異常で、神経の異常を早くとらえやすい感度の高い検査。

固有位置感覚(プロプリオセプション)は、目で見なくても自分の手足や体がどんな位置にあるかを感じ取る感覚である。

この感覚を調べるのが、ナックリング検査(固有位置感覚試験)である。

やり方は、動物の体重を支えたまま、足先をひっくり返して足の甲(足背)を地面につけた、不自然な状態(ナックリング)にする。

正常な動物は、この不自然な向きをすぐに感じ取り、ただちに足を正しい向き(肉球が下)に戻す。

戻すのが遅れたり、そのまま甲をつけたままにしていたりするのは異常で、固有位置感覚やそれを伝える神経の経路に問題があることを示す。

椎間板ヘルニアなどの脊髄の病気では、この固有位置感覚の異常が早い段階から現れることが多く、神経の異常を早くとらえやすい感度の高い検査として重視される。

3姿勢反応② 踏み直り・跳び直り・立ち直り

触覚性踏み直り反応は、目隠し(視界を遮る)して足の甲を台の縁に触れさせ、台の上に足を乗せ直すかをみる。視覚性踏み直り反応は、視覚を使って台に近づけ、見て足を乗せるかをみる。跳び直り反応(ホッピング)は、片足だけで体重を支えさせて横に傾け、ケンケンして姿勢を保てるかをみる。立ち直り反応は、横向きに寝かせてすぐ起き上がれるかをみる。

姿勢反応には、固有位置感覚のほかにもいくつかの検査がある。

踏み直り反応(プレーシング)は、足を台(テーブル)の上に正しく乗せ直せるかをみる検査で、触覚性と視覚性に分けられる。

触覚性踏み直り反応は、動物の視界を遮って(目隠しして)見えないようにし、足の甲を台の縁に触れさせて、その触れた感覚をたよりに足を台の上に乗せ直せるかをみる。

視覚性踏み直り反応は、目隠しをせず、台に近づけたときに視覚で台を認識し、触れる前に足を乗せられるかをみる。

跳び直り反応(ホッピング)は、動物の体を支えて1本の足だけで立たせ、その足の側へ体を傾けて(外側へスライドさせて)、足をケンケンと踏みかえて姿勢を保てるかをみる。

左右・前後肢それぞれで行う。

立ち直り反応は、動物を横向きに寝かせ、すぐに起き上がって正しい姿勢に戻れるかをみる。

これらが低下・消失している側や肢から、異常のある場所の見当をつける。

4脊髄反射① 屈曲反射・膝蓋腱反射

屈曲反射(引っ込め反射)は、横にして四肢を軽く伸ばし、足先(指)を軽くつまむと、正常なら関節を曲げて肢を引っ込める反射。膝蓋腱反射(膝反射)は、横にして膝を軽く曲げ、膝のお皿の下の腱(膝蓋靱帯)を打診槌(打腱器)で軽く1回叩くと、正常なら大腿四頭筋が収縮して膝関節が1回伸展する反射。

脊髄反射は、脳を介さず脊髄にある反射の中枢を通って起こる反射で、刺激を入れて決まった反応が出るかをみる。

屈曲反射(引っ込め反射)は、動物を横向きに寝かせ、四肢を軽く伸ばした状態で足先(指・趾)を指や鉗子で軽くつまんで刺激する。

正常であれば、つままれた肢の各関節が屈曲して、肢を引っ込める。

前肢・後肢のどちらでも行う。

膝蓋腱反射(膝反射)は、動物を横向きに寝かせ、後肢の膝関節を軽く曲げた状態にして、膝のお皿(膝蓋骨)の下にある腱(膝蓋靱帯)を打診槌(打腱器)で軽く1回叩く。

正常であれば、大腿の前面の筋肉(大腿四頭筋)が収縮し、膝関節が1回、軽く伸展する(下の足が前に蹴り出される)。

脊髄反射は、1回の刺激(打診)に対して1回の収縮が現れるのが正常である。

反射が弱い・出ない(低下・消失)場合は、その反射に関わる脊髄分節や末梢神経に異常があることを示す。

5脊髄反射② 橈側手根伸筋反射・皮筋反射・会陰反射

橈側手根伸筋反射は、横にして手根(手首)関節を軽く曲げ、前肢の橈側手根伸筋の筋腹を打診槌で叩くと、正常なら手根関節が軽く伸展する。皮筋反射(パニキュラス反射)は、背中の背骨の左右の皮膚を鉗子で軽くつまむと、正常なら体幹の皮膚の筋肉(皮筋)がピクッと収縮する。会陰反射は、肛門・会陰部を刺激すると肛門括約筋が収縮し尾が曲がる。

脊髄反射には、ほかにも前肢や体幹で行うものがある。

橈側手根伸筋反射は、動物を横向きに寝かせ、手根(手首)関節を軽く曲げた状態にして、前肢の橈側手根伸筋(手根を伸ばす筋肉)の筋腹を打診槌で軽く叩く。

正常であれば、手根関節が軽く伸展する。

皮筋反射(パニキュラス反射・皮膚体幹筋反射)は、動物を起立させ、背骨から少し離れた左右の背中の皮膚を、鉗子などで軽くつまんで刺激する。

正常であれば、刺激した左右の体幹の皮膚の筋肉(皮筋)がピクッと収縮する。

皮筋反射が出なくなる境目から、おおよそ数椎体前のあたりに脊髄の病変があると推定でき、病変の高さを探る手がかりになる。

会陰反射は、肛門や会陰部を鉗子などで軽く刺激し、肛門括約筋が収縮して尾が曲がるかをみる検査で、仙髄や陰部神経の状態を反映する。

これらの反射も、関係する脊髄分節・神経が決まっているため、低下・消失の組み合わせから病変部位をしぼり込める。

6検査の意義と看護のポイント

脊髄反射は1回の刺激に1回の収縮が正常。反射が低下・消失していれば、その反射に関わる脊髄分節・末梢神経の異常(下位運動ニューロン障害)を、逆に過剰に亢進していればより上位(脳・上位脊髄)の異常を疑う。検査では動物が痛がらない・こわがらないよう、やさしく確実に保定し、左右を比較して記録することが大切。

神経学的検査の所見は、病変が脳・脊髄・末梢神経のどこにあるかを推定するための大切な手がかりになる。

脊髄反射は、1回の刺激に対して1回の収縮が現れるのが正常である。

反射が低下・消失している場合は、その反射の経路(脊髄分節や末梢神経)そのものに障害があること(下位運動ニューロンの障害)を示す。

逆に、反射が異常に強く出る(亢進する)場合は、その反射を上から抑えている、より上位(脳や上位の脊髄)の経路に障害があることを疑う。

姿勢反応や反射は、必ず左右・前後肢を比べて、どこがどの程度おかしいかを記録する。

動物看護師は、検査中に動物が痛がったりこわがったりしないよう、やさしく確実に保定して獣医師を補助し、結果を正確に記録する。

また、椎間板ヘルニアが疑われる動物では、むやみに動かすと悪化することがあるため、体を支える・ねじらないなど、扱い方にも配慮する。

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