食道の病気と吐出(吐出と嘔吐のちがい)

食道から内容物が逆流する「吐出」と、胃から能動的に吐く「嘔吐」のちがいを理解し、巨大食道症(食道拡張症)、先天性の血管輪奇形(右大動脈弓遺残)、薬剤性の食道狭窄、そして嘔吐・下痢に伴う酸塩基平衡の異常を、図ではなく文章で読んで学ぶ。吐出は誤嚥性肺炎につながるため注意が必要。

1吐出と嘔吐のちがい

吐出は食道からの受動的な逆流で、悪心などの前駆症状がなく、未消化で胆汁を含まないことが多い。嘔吐は胃の内容を能動的に吐く動きで、流涎・むかつきなどの前駆症状を伴い、消化された内容や胆汁を含むことがある。

吐出と嘔吐のちがい。吐出(オレンジ)=食道からの受動的な逆流で、前駆症状がなく、未消化で胆汁を含まないことが多く、食道の病気(巨大食道症・血管輪奇形・食道狭窄)を疑う。嘔吐(赤)=胃・十二指腸からの能動的な排出で、流涎・むかつきなどの前駆症状を伴い、消化された内容や胆汁を含むことがあり、胃や全身の病気を疑う。

「吐く」には、大きく分けて吐出(としゅつ)と嘔吐(おうと)の二つがある。

吐出は、食べた物が胃まで届かず食道から逆流して口から出てくることで、受動的(物理的にあふれ出るだけ)に起こる。

そのため、むかむかする悪心や流涎といった前駆症状がなく、内容物は未消化で、胃液や胆汁を含まないことが多い。

食後の比較的短い時間に起こりやすいのも特徴である。

一方、嘔吐は胃や十二指腸の内容を能動的に吐き出す動きで、流涎・むかつき・腹筋の収縮といった前駆症状を伴い、消化が進んだ内容や胆汁を含むことがある。

吐出は食道の病気を、嘔吐は胃や全身の病気を疑う手がかりになるため、どちらなのかを見分けることが診断の出発点になる。

2巨大食道症(食道拡張症)

食道の運動性が低下して食道が広く拡張し、食べた物が胃へ送られずに吐出する病気。吐いた物が気管から肺に入ると誤嚥性肺炎を起こし、命に関わることがある。

巨大食道症(食道拡張症)は、食道の運動性が低下し、食道が広い範囲にわたって拡張してしまう病気である。

食道が正常に動かないため、食べた物や水が胃へ送られず、食後比較的短い時間で吐出する。

先天性のものと、ほかの病気に伴って起こる後天性のものがある。

最も注意すべき合併症が誤嚥性肺炎で、吐いた食物が気管から肺に入ると肺炎を起こし、発熱・咳・呼吸困難をきたし、死に至ることもある。

食事を高い位置で与える(立たせて食べさせる)などの管理で、重力を使って食道から胃へ流す工夫が行われる。

3血管輪奇形(右大動脈弓遺残)

先天的に心臓のまわりの血管が輪のように食道を締めつける異常。最も多いのが右大動脈弓遺残(PRAA)。哺乳中は無症状で、離乳して固形物を食べ始めると吐出が出るのが典型。締めつけより前方の食道が拡張する。

血管輪奇形は、心臓の付け根(心基底部)のまわりにある血管が、輪のように食道を取り囲んで締めつけてしまう先天性の異常である。

最も多いのが右大動脈弓遺残(PRAA)で、本来退縮するはずの右の大動脈弓が残ることで起こる。

心臓のまわりで食道がこの輪の中に挟まれてしまうため、液体は通っても固形物が通りにくく、締めつけより前方(口側)の食道が拡張する。

哺乳中(液状のミルク)は症状が出ず、離乳して固形のフードを食べ始めた直後から吐出がみられるのが典型的で、成長不良・体重減少を伴う。

治療は血管輪を切離する手術で、食道の拡張が強いほど術後も吐出が残りやすいため、早期の手術がすすめられる。

4薬剤性の食道炎と食道狭窄

テトラサイクリンやドキシサイクリンは刺激性があり、錠剤が食道に停滞すると炎症(食道炎)を起こし、瘢痕化して食道狭窄を引き起こすことがある。とくに猫で問題になりやすく、投薬後は水を飲ませて胃まで流すことが予防になる。

食道狭窄は、食道の一部が狭くなって食物が通りにくくなる状態で、薬剤が原因になることがある。

テトラサイクリンやドキシサイクリンといった抗菌薬は刺激性があり、錠剤やカプセルが水なしで投与されて食道に停滞すると、粘膜に張りついて炎症(食道炎)を起こす。

炎症が続くと、その部分が瘢痕化して硬くなり、食道狭窄を引き起こすことがある。

とくに猫では、ドライ(水なし)での錠剤投与で起こりやすいことが知られている。

予防として、投薬後に水を飲ませて錠剤を食道から胃まで流す、フードと一緒に与えるといった工夫が大切である。

5嘔吐・下痢と酸塩基平衡

嘔吐では酸性の胃液(胃酸)が失われるため、体は酸が減ってアルカリ性に傾き、代謝性アルカローシスになる。下痢ではアルカリ性の腸液が失われるため、酸性に傾き代謝性アシドーシスになる。

激しい嘔吐や下痢が続くと、体の酸とアルカリのバランス(酸塩基平衡)がくずれる。

嘔吐では、胃酸という酸性の胃液が体の外へ失われる。

体内から酸が減るため、相対的にアルカリ性へ傾き、代謝性アルカローシスになる。

反対に下痢では、アルカリ性(重炭酸を含む)の腸液が失われるため、体は酸性へ傾き、代謝性アシドーシスになる。

なお、吐出は胃酸の関与しない食道からの逆流なので、嘔吐のような酸塩基平衡の大きな変化は通常起こりにくい。

嘔吐・下痢が続く動物では、電解質とあわせて酸塩基平衡の異常にも注意して輸液などで補正する。

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