犬の感染症(伝染性肝炎・喉頭気管炎・パルボ)

犬のコアワクチンで防ぐウイルス感染症を深く学ぶ。犬伝染性肝炎は犬アデノウイルス1型(二本鎖DNA)による肝臓の感染症で、経口・経鼻でうつり、回復期に角膜がむくんで目が青白く濁る『ブルーアイ』が特徴。1日で死ぬ突発致死型もあるが、多くは自然に治る。犬伝染性喉頭気管炎は犬アデノウイルス2型(二本鎖DNA)による呼吸器の感染症で、乾いた咳を起こすケンネルコフの一因。単独では死なないが混合感染で重くなる。犬パルボウイルス感染症(一本鎖DNA)は、激しい嘔吐・血便・白血球減少を起こす腸炎型と、子犬で心筋炎を起こして急死する心筋型がある。いずれも消毒に強いウイルスは次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒することを、文章と確認問題で理解する。

1犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型)とは

犬伝染性肝炎は、犬アデノウイルス1型(CAV-1、二本鎖DNAウイルス)による、おもに肝臓の感染症。感染した犬の糞・尿・唾液を介して経口・経鼻で感染する。回復した犬は、症状が消えたあとも数か月以上、尿にウイルスを排出することがある。

犬の代表的な3つのウイルス感染症を、病原体(核酸の種類)と主症状で対比した表。犬伝染性肝炎はアデノ1型、喉頭気管炎はアデノ2型(ともに二本鎖DNA)、パルボウイルス感染症は一本鎖DNAで、いずれもノンエンベロープのため消毒に強い。

犬伝染性肝炎は、犬アデノウイルス1型(CAV-1)による感染症で、おもに肝臓に炎症(肝炎)を起こす。

犬アデノウイルス1型は、二本鎖DNAをもつアデノウイルスの仲間である。

感染した犬の糞・尿・唾液の中にウイルスが含まれ、それを口や鼻から取り込むこと(経口・経鼻感染)で感染が成立する。

症状の重さはさまざまで、まったく症状の出ない不顕性感染から、軽症・重症、命を落とす致死型まで幅がある。

回復した犬では、症状が消えたあとも数か月以上にわたって尿の中にウイルスを排出し続けることがあり、ほかの犬への感染源になる。

そのため、見た目が元気になった犬でも、しばらくは感染を広げないよう注意が必要である。

2犬伝染性肝炎の特徴(ブルーアイ・突発致死型・消毒)

回復期の犬の約20%に、角膜がむくむ(角膜浮腫)ことで目が青白く濁って見える『ブルーアイ』が現れるのが特徴。多くは治療しなくても自然に治るが、突然悪化して1日ほどで死ぬ突発致死型(甚急性型)もある。犬アデノウイルスはエンベロープをもたず消毒に強いため、グルタルアルデヒドやポビドンヨードで消毒する。

犬伝染性肝炎の特徴的な症状が『ブルーアイ』である。

これは、回復期の犬の約20%程度にみられるもので、目の表面の角膜がむくむ(角膜浮腫)ことで、目が青白く濁って見える状態をいう。

ブルーアイは、ウイルスに対する免疫の反応(免疫複合体)が角膜に沈着して起こると考えられ、多くは時間とともに治っていく。

犬伝染性肝炎は、軽症であれば特別な治療をしなくても、十分な抗体ができれば1〜2週間ほどで自然に回復することが多い。

一方で、突発致死型(甚急性型)では、突然、高熱や虚脱などの劇的な悪化が起こり、1日ほどの短期間で死亡することもある。

犬アデノウイルスは、外側を包む膜(エンベロープ)をもたないノンエンベロープウイルスで、消毒薬に強い。

そのため、アルコールでは不十分で、消毒にはグルタルアルデヒドやポビドンヨードなど、ノンエンベロープウイルスに効く消毒薬を用いる。

3犬伝染性喉頭気管炎(犬アデノウイルス2型)

犬伝染性喉頭気管炎は、犬アデノウイルス2型(CAV-2、二本鎖DNAウイルス)による呼吸器の感染症。接触・飛沫感染で広がり、発熱・食欲不振・鼻汁・乾いた咳を起こす『ケンネルコフ』の病原体の一つ。肝炎は起こさず、これ単独では重症化しないが、ほかの病原体との混合感染で症状が重くなる。

犬伝染性喉頭気管炎は、犬アデノウイルス2型(CAV-2)による呼吸器(のど・気管)の感染症である。

犬アデノウイルス2型も、1型と同じく二本鎖DNAをもつアデノウイルスだが、肝炎は起こさず、おもに呼吸器に感染する。

感染した犬との接触や、咳・くしゃみのしぶき(飛沫)によって広がる(接触・飛沫感染)。

症状は、発熱・食欲不振・鼻汁、そして『カッカッ』という乾いた咳が特徴である。

犬アデノウイルス2型は、犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)を起こす病原体の一つである。

ケンネルコフは、犬パラインフルエンザウイルスやボルデテラ(細菌)など複数の病原体の混合感染で起こることが多い。

犬アデノウイルス2型は、この病気だけで死亡することはほとんどないが、ほかの病原体と一緒に感染(混合感染)すると、症状が重くなることがある。

(ワクチンでは、安全な犬アデノウイルス2型を使うことで、1型による犬伝染性肝炎と2型による喉頭気管炎の両方の予防をはかる。

4犬パルボウイルス感染症①(腸炎型)

犬パルボウイルス感染症(犬伝染性腸炎)は、犬パルボウイルス(一本鎖DNAウイルス)による。接触(経口)感染で広がり、潜伏期はおよそ4〜14日。腸炎型では、激しい嘔吐、血の混じった下痢(血便)、食欲廃絶、脱水を起こす。骨髄も侵されて白血球が減少し、子犬では命に関わる。

犬パルボウイルス感染症は、犬伝染性腸炎ともよばれ、犬パルボウイルス(CPV)による感染症である。

犬パルボウイルスは、一本鎖DNAをもつパルボウイルスで、おもに感染した犬の便などを口から取り込むこと(接触・経口感染)で広がる。

潜伏期間はおよそ4〜14日(1〜2週間ほど)である。

代表的な腸炎型では、激しい嘔吐と、血の混じった水のような下痢(血便・血様下痢)を起こし、食欲がまったくなくなり(食欲廃絶)、脱水が進む。

犬パルボウイルスは、分裂のさかんな細胞を好んで攻撃するため、腸の粘膜だけでなく、白血球をつくる骨髄も侵す。

そのため、白血球(好中球・リンパ球)が著しく減少する。

腸のダメージと白血球減少が重なって、とくに子犬では短期間で命に関わる重い病気になる。

5犬パルボウイルス感染症②(心筋型・妊娠・検査・治療)

生後8週齢未満の子犬が感染すると、ウイルスが心臓に感染して心筋炎を起こし、突然死することがある(心筋型)。妊娠中の感染では流産・死産も。診断は犬パルボ抗原(CPV)の検査キットやPCR。治療は対症療法で、輸液で脱水を補い、制吐薬や、二次感染を抑える抗菌薬などを用いる。

犬パルボウイルス感染症には、腸炎型のほかに心筋型がある。

生後まもない(おおむね生後8週齢未満の)子犬が感染すると、ウイルスが心臓の筋肉に感染して心筋炎を起こし、突然死することがある。

これを心筋型という。

また、妊娠中の母犬が感染すると、流産や死産を起こすことがある。

診断には、便などから犬パルボウイルスの抗原を調べる検査キット(CPV抗原検査)や、ウイルスの遺伝子を調べるPCR法が用いられる。

犬パルボウイルスに直接効く特効薬はないため、治療は症状をやわらげる対症療法が中心になる。

具体的には、脱水を補うための輸液、嘔吐を抑える制吐薬、白血球が減って起こりやすくなる細菌の二次感染を抑える抗菌薬(抗生物質)などを用いて、回復を支える。

子犬では急速に悪化するため、早期の集中的な治療が救命のかぎになる。

6犬パルボの消毒と予防

犬パルボウイルスはエンベロープをもたず環境に強く、アルコールや逆性石けんが効きにくい。消毒には塩素系の次亜塩素酸ナトリウム、グルタルアルデヒド、ポビドンヨードなどを使う。予防はコアワクチン(ジステンパー・パルボ・アデノ)の接種が有効。

犬パルボウイルスは、猫パルボウイルスと同じく、エンベロープ(外膜)をもたないノンエンベロープウイルスである。

環境中で長く生き残り、消毒薬に強い(アルコールや逆性石けんが効きにくい)。

そのため、消毒には塩素系の次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤を薄めたもの)を中心に、グルタルアルデヒドやポビドンヨードなど、ノンエンベロープウイルスに効く消毒薬を用いる。

感染犬がいた環境やケージ、食器などは、これらの消毒薬でしっかり消毒する。

予防は、犬のコアワクチン(犬ジステンパー・犬パルボウイルス・犬アデノウイルスを含む混合ワクチン)の接種が有効である。

(犬アデノウイルスも犬パルボウイルスもノンエンベロープで消毒に強い、と『パルボ・アデノは消毒に強い』とまとめて覚えるとよい。

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