糖尿病とケトアシドーシス(酸塩基平衡)

糖尿病は「血糖値が高い」だけでは診断できない。ストレスでも血糖は上がるため、持続的な高血糖をフルクトサミンや尿糖で確かめる。インスリンが不足すると細胞が糖を使えず脂肪を分解してケトン体(酸性)が増え、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)という緊急状態になる。膵臓のβ細胞が壊れインスリンが出なくなる1型(イヌに多い)と、肥満で受容体が減りインスリンが効きにくくなる2型(ネコ・ヒトに多い)の違い、未避妊雌の発情後のインスリン抵抗性、糖尿病性白内障(イヌ)や末梢神経障害(ネコの蹠行)、そして代謝性アシドーシス・アルカローシスを学ぶ。

1糖尿病の診断 ― 持続的な高血糖を確かめる

一度の血糖値が高いだけでは糖尿病と決められない。とくにネコはストレスだけで一時的に血糖が大きく上がる(ストレス性高血糖)。診断には、空腹時を含めて高血糖が続くこと、尿に糖が出ること(尿糖)、そして過去1〜3週間の平均血糖を反映するフルクトサミンや糖化ヘモグロビンの高値を確認する。

糖尿病の診断フロー。1回の高血糖だけでは診断できず、ネコに多い一時的なストレス性高血糖と区別するため、尿糖と、過去1〜3週間の平均血糖を反映するフルクトサミンや糖化ヘモグロビンで持続的な高血糖を確かめる。

糖尿病は、インスリンの不足や効きの悪さによって血糖値(血液中のブドウ糖)が慢性的に高くなる病気である。

しかし、その場の血糖値が高いというだけでは糖尿病と診断できない。

とくにネコは、診察や採血の緊張などストレスだけで一時的に血糖値が大きく上がること(ストレス性高血糖)があり、ときに300mg/dLを超えることもある。

そこで診断では、空腹時を含めて高血糖が持続していることを確かめ、あわせて尿に糖が出ているか(尿糖)を尿検査で調べる。

決め手になるのが、フルクトサミンや糖化ヘモグロビン(グリコヘモグロビン)の測定である。

これらは血液中のタンパクや赤血球に糖が結合した割合を見るもので、過去1〜3週間ほどの平均的な血糖の高さを反映する。

そのため、一時的なストレス性高血糖にはあまり影響されず、本当に高血糖が続いているかどうかを区別できる。

2インスリンとケトン体

インスリンは血中のブドウ糖を細胞に取り込ませるホルモン。これが不足すると、血糖は高いのに細胞はエネルギー源の糖を使えず「飢餓」状態になる。そこで体は脂肪を分解してエネルギーを作り、その副産物としてケトン体ができる。ケトン体は酸性の物質で、増えすぎると血液が酸性に傾く。

インスリンは膵臓から出るホルモンで、血液中のブドウ糖を全身の細胞に取り込ませ、エネルギーとして使えるようにする。

インスリンが不足すると、血液中には糖があふれているのに、細胞の中に糖を取り込めず、細胞はエネルギー不足(飢餓)の状態になる。

そこで体は、脂肪を分解してエネルギーを作り出そうとする。

このとき、脂肪を分解してできる副産物がケトン体である。

ケトン体は、脳の神経細胞をのぞく多くの細胞が非常時のエネルギー源として使えるが、酸性の物質である。

通常はインスリンの働きのもとで利用・処理されるが、インスリンが足りないと利用が追いつかず、ケトン体が一方的にたまっていく。

酸性のケトン体がたまると、体の中(血液)が酸性に傾いていく。

3糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)

ケトン体がたまって血液が酸性に傾いた状態が糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)。持続的高血糖・尿ケトン陽性・代謝性アシドーシスの3つで診断する。ぐったりして食欲がなくなり、嘔吐や脱水を起こす命に関わる緊急事態。治療は輸液・電解質補正と、効果の早い速効型(レギュラー)インスリンの少量持続投与が中心。

糖尿病が進んでケトン体がたまり、血液が酸性に傾いた状態を糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)という。

診断は、持続的な高血糖・尿中ケトン体が陽性・代謝性アシドーシス(血液が酸性)の3つを確認することが基本になる。

症状としては、元気がなくなってぐったりし、食欲が落ちて食べなくなり、嘔吐や脱水、呼気が甘酸っぱいにおいになるなどがみられ、放置すると命に関わる。

治療では、まず脱水と電解質異常を補う輸液を行い、効果の現れが早い速効型インスリン(レギュラーインスリン)を少量ずつ静脈内などに持続的に投与して、血糖をゆっくり下げていく。

ここで重要なのが、カリウムの管理である。

インスリンはブドウ糖といっしょにカリウムやリンを細胞内へ取り込ませるため、カリウムを補正しないままインスリンを始めると、血中カリウムが急に下がって重篤な低カリウム血症を起こす危険がある。

そのため、血糖だけでなく電解質や血液ガスをこまめに測りながら、慎重に治療を進める。

41型と2型のちがい

1型は膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)が壊れてインスリンが出なくなるタイプで、イヌに多く、インスリン注射が一生必要。2型は肥満などでインスリンが効きにくくなる(インスリン抵抗性)タイプで、ネコやヒトに多い。肥満でインスリン受容体が減ることをダウンレギュレーションという。

糖尿病は、おおまかに1型と2型に分けられる。

1型糖尿病は、膵臓でインスリンを作るβ細胞(膵島の細胞)が壊れ、インスリンそのものが出なくなる(分泌不全)タイプである。

イヌの糖尿病の多くはこのタイプに近く、初期は症状が軽くても、最終的にはインスリン注射が生涯必要になる。

2型糖尿病は、インスリンはある程度出ているのに、体の細胞がインスリンに反応しにくくなる(インスリン抵抗性)タイプで、ネコやヒトに多い。

肥満があると、細胞の表面のインスリン受容体の数が減って、インスリンが効きにくくなる。

この受容体が減る現象をダウンレギュレーションという。

ネコでは、肥満による抵抗性に加えてインスリンの分泌も低下していることが多い。

太って糖尿病になっても、減量で改善することがある一方、また太ると再発することもある。

5インスリン抵抗性と合併症

発情後の未避妊の雌では、黄体ホルモン(プロゲステロン)の影響で強いインスリン抵抗性が出て糖尿病を起こすことがある(避妊で改善することも)。抵抗性は変動するため、いつも通りインスリンを打つと低血糖を起こす危険がある。合併症として、イヌでは糖尿病性白内障(水晶体が白く濁る)、ネコではかかとを地面につけて歩く蹠行(末梢神経障害)が知られる。

インスリンの効きは、さまざまな要因で変動する。

未避妊の雌イヌでは、発情の後(黄体期)に黄体ホルモンであるプロゲステロンの影響で成長ホルモンが増え、強いインスリン抵抗性が生じて糖尿病を発症することがある(発情後糖尿病)。

避妊手術で抵抗性が取れて改善することもある。

このように抵抗性が変化している状態で、いつもと同じ量のインスリンを打つと、効きすぎて低血糖を起こす危険があるため注意する。

糖尿病では脂肪の分解がさかんになり、高脂血症(高コレステロール・高中性脂肪)を起こして血液(血漿)が白く濁る(脂血症)こともある。

慢性の高血糖が続くと、合併症が現れる。

イヌでは、水晶体に糖が入り込んで白く濁る糖尿病性白内障が起こりやすく、視力が落ちる。

ネコでは、末梢神経が障害される糖尿病性神経障害により、本来つま先立ちで歩くところを、かかと(飛節)を地面につけて歩く蹠行(しょこう)という独特の歩き方がみられる。

脳の神経細胞は、ふだんブドウ糖を唯一のエネルギー源としているため、低血糖になると神経症状(ふらつき・けいれん)が出やすい点も押さえておく。

6代謝性アシドーシスとアルカローシス

DKAのように体が酸性に傾くのが代謝性アシドーシス。重炭酸イオン(HCO3⁻)が減り、水素イオン(H⁺)が増える。酸性では細胞からカリウムが出て高カリウム血症になりやすい。重度では重炭酸ナトリウム(メイロン)を投与することもある。逆に体がアルカリ性に傾くのが代謝性アルカローシスで、HCO3⁻が増え、低カリウム血症をともない、輸液と塩化物(クロール)の補充で治療する。

血液は弱アルカリ性(pH7.4前後)に保たれており、これが酸性・アルカリ性どちらかに傾くのが酸塩基平衡の異常である。

代謝性アシドーシスは、体が酸性に傾く病態で、DKAのほか、腎不全、重度の下痢などで起こる。

血液を中性に戻す働きをする重炭酸イオン(HCO3⁻)が減り、酸である水素イオン(H⁺)が増えるのが特徴である。

酸性に傾くと、細胞は水素イオンを取り込むかわりにカリウムを細胞の外(血液中)へ出すため、血中カリウムが上がる高カリウム血症になりやすい(体全体のカリウムは不足していても、血中の値は高く出ることがある)。

治療は原因(原疾患)の治療が基本で、アシドーシスが重度のときには重炭酸ナトリウム(メイロン、重炭酸水素ナトリウム)を点滴で補って中和することがある。

一方、代謝性アルカローシスは、体がアルカリ性に傾く病態で、重炭酸イオン(HCO3⁻)が増え、水素イオン(H⁺)が減る。

嘔吐などで胃酸(塩酸)が失われると起こりやすく、低カリウム血症をともなうことが多い。

治療は、輸液による水分と、塩化物(クロール)・カリウムなどの電解質の補充が中心になる。

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