猫の慢性腎臓病(CKD)の治療

猫の慢性腎臓病(CKD)の治療は、かつての『輸液と療法食』中心から、病期と症状に応じて療法食・リン管理・血圧/蛋白尿管理・薬・必要時の輸液を組み合わせる時代へ変わってきた。治療の目的は完治ではなく進行を遅らせること。IRISステージ分類、ステージ別の治療、皮下輸液の考え方、ラプロス・セミントラ・リン吸着剤などの薬を整理する。

1CKD治療の考え方(治すのではなく進行を遅らせる)

慢性腎臓病(CKD)は、いったん壊れた腎臓を元に戻すことはできない。治療の目的は『完治』ではなく、進行を遅らせ、症状(尿毒症など)をコントロールして生活の質(QOL)を保つこと。方針は、病期・脱水・食欲・尿毒症症状・血圧/蛋白尿などから総合的に決める。

CKD治療の目的は完治ではなく進行抑制とQOL維持であり、治療方針は病期・脱水・食欲・尿毒症症状・血圧/蛋白尿の5つの要素から総合的に判断する。

慢性腎臓病(CKD)は、長い時間をかけて腎臓の機能が少しずつ失われていく病気で、壊れた腎臓の組織を元どおりに再生させることはできない。

そのため、治療の目的は『治す(完治)』ことではなく、進行をできるだけ遅らせ、尿毒症などの症状をやわらげて、その猫の生活の質(QOL)を長く保つことにある。

重要なのは、『腎不全だから必ず輸液が必要』というわけではない、という点である。

治療方針は、検査の数値だけで決めるのではなく、次のような複数の要素から総合的に判断する。

具体的には、①病期(IRISステージ)、②脱水の有無、③食欲の有無、④尿毒症症状(嘔吐・元気消失など)の有無、⑤血圧や蛋白尿の有無、などである。

近年は治療の選択肢が増え、『輸液と療法食』だけでなく、リン管理・血圧/蛋白尿の薬・進行抑制薬などを、その猫の状態に合わせて組み合わせる考え方になっている。

2IRISステージ分類

CKDは国際的なIRIS分類で重症度を4ステージに分ける。おもに血中クレアチニン(Cre)とSDMAの値で病期を決め、さらに血圧と蛋白尿(UPC)の程度でサブステージ化する。ステージが進むほど腎機能が低下している。

慢性腎臓病の重症度は、国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)が定めた『IRISステージ分類』で評価するのが標準である。

病期(ステージ1〜4)は、おもに血液中のクレアチニン(Cre)と、より早期から腎機能低下を反映する指標であるSDMA(対称性ジメチルアルギニン)の値をもとに決める。

数値が高いほど(ステージが進むほど)腎機能が低下している。

さらに、同じステージの中でも、血圧(高血圧の有無)と蛋白尿の程度(尿中タンパク/クレアチニン比=UPC)によって『サブステージ』に分けて評価する。

ステージ1〜2は、数値の上昇がまだ軽い段階、ステージ3〜4は、クレアチニン・SDMAの高値と尿濃縮能の低下(尿比重<1.035など)がそろう、より進行した段階である。

ステージを正しく評価することで、その猫に必要な治療(療法食だけでよいか、輸液や薬を加えるか)を判断しやすくなる。

3ステージ別の治療(初期・中期・後期)

初期(Stage 1〜2)は療法食・十分な飲水・定期検査が中心で、必要に応じてリン吸着剤・血圧薬・蛋白尿の薬。中期(Stage 2〜3)は多飲多尿・体重減少が出て、リン/血圧/蛋白尿管理に加え皮下輸液を行うことも。後期(Stage 4)は食欲低下・嘔吐・尿毒症・貧血に対し輸液・制吐剤・胃薬・貧血治療を組み合わせる。

CKDの治療は、ステージ(病期)に応じて段階的に組み立てる。

初期(IRIS Stage 1〜2)は、血液検査で腎臓の数値が少し悪い程度の段階で、腎臓療法食・十分な飲水・定期的な検査が中心となる。

必要に応じてリン吸着剤、血圧の薬、蛋白尿の薬を使う。

この段階では皮下輸液をしない猫も多い。

中期(IRIS Stage 2〜3)はよくみられる段階で、水をたくさん飲む・尿が増える(多飲多尿)、体重減少、毛づやの低下などがみられる。

腎臓療法食、リン管理、血圧管理、蛋白尿管理を行い、必要に応じて皮下輸液を(週1回〜毎日など、状態に応じて)実施する。

脱水しやすい猫には皮下輸液が非常に有効である。

後期(IRIS Stage 4)は、食欲低下・嘔吐・尿毒症・貧血などが現れる進行した段階で、皮下輸液や静脈点滴、制吐剤、胃薬、貧血治療などを組み合わせて、つらい症状をやわらげる。

4皮下輸液は本当に必要か(数値より脱水とQOL)

輸液をするかどうかは、検査の『数値』だけでなく『脱水と生活の質』で考える。数値が悪くても、元気・食欲があり水も飲めていれば輸液なしで経過をみることもある。逆に数値が軽度でも、食欲低下や脱水があれば輸液を始めることがある。

CKDで皮下輸液を行うかどうかは、しばしば判断に迷うポイントである。

考え方の中心は、『数値(クレアチニンなど)』そのものよりも、『脱水しているか』『生活の質(QOL)が保てているか』である。

たとえば、ステージ3で数値はやや悪くても、元気があり、食欲もあり、自分で水も飲めている猫であれば、すぐに輸液を始めず経過をみることもある。

反対に、数値の悪化は軽度でも、食欲が落ちていて脱水があるような猫では、輸液を始めることがある。

つまり、『腎不全=必ず輸液』ではなく、その猫が脱水しているか、ふだんどおりの生活ができているかを見て、必要なときに輸液を行う、という発想である。

皮下輸液は、脱水を補って尿毒症の症状をやわらげ、体調を保つのに役立つ。

在宅で飼い主が行うこともあり、動物看護師はその手技指導や、脱水・体調のチェックを支援する。

5CKDの治療薬(ラプロス・セミントラ・リン吸着剤)

ラプロス(ベラプロストナトリウム)は日本で開発された猫CKD治療薬で、腎臓の血流改善・抗炎症などにより進行を遅らせる(治す薬ではない)。セミントラ(テルミサルタン)は蛋白尿や高血圧のある猫に使う。リン吸着剤(レンジアレン・カリナール・イパキチンなど)は高リン血症の管理に用いる。

近年、猫のCKDに使える薬が増えてきた。

代表的なものを整理する。

ラプロス(有効成分ベラプロストナトリウム)は、日本で開発・承認された猫の慢性腎臓病治療薬で、プロスタサイクリン製剤である。

腎臓の血流を改善し、炎症や線維化を抑えることで、腎機能低下の進行を遅らせることが期待される。

ただし『腎不全を治す薬』ではなく、あくまで『進行を緩やかにする薬』という位置づけである。

セミントラ(有効成分テルミサルタン)は、アンジオテンシンの作用を抑える薬で、蛋白尿や高血圧のある猫でよく使われる。

蛋白尿を減らし、高血圧を抑えることで腎臓を保護する。

(同じく蛋白尿・高血圧に対しては、ベナゼプリル=フォルテコールなどのACE阻害薬も用いられる。

)リン吸着剤は、高リン血症を管理するために、腸からのリンの吸収を抑える薬で、レンジアレン、カリナール、イパキチンなどがある。

療法食だけでリンを十分に下げられないときに食事に加える。

これらを、その猫のステージや症状(蛋白尿・高血圧・高リン血症など)に合わせて選んで使う。

6治療の優先順位と動物看護

現在の治療の優先順位の目安は、①水分摂取の確保 → ②腎臓療法食 → ③リン管理 → ④血圧・蛋白尿管理 → ⑤必要時の輸液 → ⑥ラプロスなどの薬。『輸液だけで延命』から『療法食+リン管理+薬+必要時の輸液』へ。看護では飲水・食欲・脱水・体重・嘔吐の観察と、在宅ケア支援が大切。

現在のCKD治療の優先順位は、おおむね次のように整理できる。

①水分摂取の確保、②腎臓療法食、③リン管理、④血圧・蛋白尿管理、⑤必要時の輸液、⑥ラプロスなどの進行抑制薬、という流れである。

かつての『輸液だけで長生きさせる』時代から、『療法食+リン管理+薬+必要なときの輸液』を組み合わせて、進行を遅らせながら生活の質を保つ時代へと変わってきている。

動物看護師は、こうした治療を支える役割を担う。

日々の観察では、飲水量・尿量、食欲、体重の変化、嘔吐・元気消失などの尿毒症症状、脱水の程度をチェックし、変化を獣医師に報告する。

在宅では、療法食を続けられる工夫、皮下輸液の手技指導、薬(リン吸着剤・降圧薬・進行抑制薬など)の与え方の説明と、続けられているかの確認を行う。

また、Cre・BUN・SDMA・リン値などの検査値や年齢を踏まえて、その猫にとって輸液を始める時期か、どの薬が向くかを獣医師が判断する際、看護師による正確な情報収集(食欲・飲水・体重・症状の記録)が重要な手がかりになる。

理解できたら腕試し!
このテーマの確認テスト