図解で学ぶ
臨床動物学

心筋症(肥大型・拘束型・拡張型)

心臓の筋肉そのものが侵される心筋症を深く学ぶ。ネコで最も多く遺伝が関わる肥大型心筋症(心室壁が厚くなり広がりにくくなる)、心筋が硬くなって広がらない拘束型心筋症、心筋が薄くなりポンプ力が落ちる拡張型心筋症(大型犬やタウリン不足のネコ)の3つの違いと、うっ血性心不全による肺水腫・胸水、そして左心房の血栓が飛ぶ動脈血栓塞栓症(ATE)までを、文章で読んで理解する。

このレッスンには芋づる表があります。表へ

1心筋症とは ― 3つの型のちがい

要点心筋症は、心臓の筋肉(心筋)そのものが侵される病気。大きく3つの型がある。肥大型(心筋が厚くなる)、拘束型(心筋が硬くなる)、拡張型(心筋が薄くなりポンプ力が落ちる)。ネコでは肥大型が最も多く、拡張型は大型犬に多い。

正常な心室と3つの心筋症の心室断面を模式的に比べた図。肥大型は心筋が厚く内腔が狭く、拡張型は心筋が薄く内腔が拡張し、拘束型は固い組織で広がりにくくなる違いを表している。

心筋症(しんきんしょう)は、弁ではなく心臓の筋肉そのもの(心筋)が侵される病気の総称である。

心筋の変化のしかたによって、大きく3つの型に分けられる。

ひとつ目は肥大型心筋症で、心筋(特に左心室の壁)が分厚くなり、心臓が広がりにくくなる。

ふたつ目は拘束型心筋症で、心筋や心内膜に硬い組織ができ、伸び縮みしにくくなって広がりにくくなる。

みっつ目は拡張型心筋症で、心筋が薄く伸びてペラペラになり、収縮する力(ポンプ力)が落ちる。

ネコでは肥大型心筋症が圧倒的に多く、拡張型心筋症は大型犬に多い、というように動物種によって多い型が異なる。

肥大型と拘束型は「広がりにくい(拡張障害)」、拡張型は「縮む力が弱い(収縮障害)」という違いを押さえると整理しやすい。

2肥大型心筋症(HCM)― ネコに最も多い

要点ネコで最も多い心臓病で、遺伝が関わり7〜8割は無症状で経過することも。左心室の心筋が厚くなって(肥厚)心室の内腔が狭くなり、心臓が硬くて十分に広がれず血液をためられない(拡張機能の低下)。進行すると呼吸が速くなる・運動を嫌がる、突然死、血栓症を起こす。

肥大型心筋症(HCM)は、ネコで最も多い心臓病であり、その多くに遺伝的な素因が関わるとされる。

病気があっても、7〜8割は長く無症状で経過することもあり、健康診断や別の病気の検査で偶然見つかることも多い。

病態としては、左心室の心筋が分厚くなり(肥厚)、心臓の内側の空間(内腔)が狭くなる。

さらに厚くなった心筋は柔軟性が低下するため、心臓がうまく広がれず、血液を十分にためられなくなる(拡張機能の低下)。

症状としては、運動を嫌がる・すぐ疲れる(運動不耐性)、安静時の呼吸が速い、といったものがあるが、ネコはイヌと違って咳はあまり出さない。

進行すると、後で述べる肺水腫・胸水による呼吸困難、左心房にできた血栓による血栓塞栓症、さらには突然死を起こすことがある。

ネコは体調の悪さを隠しやすく、症状が出たときには急に重症化して見つかることが多いので注意が必要である。

3拘束型心筋症(RCM)― 硬くて広がらない

要点心筋や心内膜に固く伸縮性に乏しい組織ができ、心臓が広がりにくくなる型。収縮(拍動の動き)は一見正常に見えても、硬くて十分にふくらめないため、血液をためられず心不全の症状が出る。はっきりした原因は分かっていないことが多い。

拘束型心筋症(RCM)は、心筋や心内膜の中に固くて伸縮性に乏しい組織が作られていく病気である。

そのため心臓が広がりにくくなり、拡張するときに十分にふくらめなくなる。

見た目の収縮(縮む動き)は比較的保たれていて一見正常に見えることもあるが、心臓が硬くて広がりにくいために血液を十分ためられない。

結果として、肥大型と同じように「広がりにくい(拡張障害)」タイプの心不全の症状が出てくる。

はっきりとした原因が分からないことが多く、ネコでみられる。

肥大型と拘束型はどちらも拡張障害が主体で、進行すると肺水腫・胸水や血栓塞栓症といった合併症を起こす点も共通している。

4拡張型心筋症(DCM)― 心筋が薄くなりポンプ力が落ちる

要点心筋が薄く伸びてペラペラになり、収縮する力(ポンプ力)が低下する型。大型犬に多い。ネコではアミノ酸のタウリン不足が原因の一つだったが、タウリンを十分含むフードが普及して発症はかなり減った。

拡張型心筋症(DCM)は、心筋が薄く伸びてペラペラになり、心臓の収縮する力(ポンプ力)が低下する病気である。

ポンプ力が落ちるため全身に血液を十分に送り出せず、心臓の内腔は広がって(拡張して)大きくなる。

イヌでは大型犬(ドーベルマン、ボクサー、グレートデンなど)に多い。

ネコでは、かつてアミノ酸の一種であるタウリンの不足が原因の一つとされていた。

現在はタウリンを十分に含むキャットフードが一般的になったため、ネコの拡張型心筋症はかなり減少している。

拡張型は「縮む力が弱い(収縮障害)」が主体で、肥大型・拘束型の「広がりにくい(拡張障害)」とは対照的な病態である。

5合併症① うっ血性心不全 ― 肺水腫と胸水

要点心筋症が進むと、心臓に戻れない血液が血管内にとどまれずあふれ出し、うっ血性心不全となる。肺に水がしみ出せば肺水腫、胸腔に水がたまれば胸水貯留。ネコは肺水腫だけでなく胸水もよく起こすのが特徴で、呼吸が速い・苦しい、開口呼吸が危険なサイン。

心筋症が進行すると、心臓がうまく血液を送り出せず、戻ってくる血液が手前にうっ滞する(うっ血)。

血液が血管内にとどまれなくなり、その液体成分が血管の外へしみ出すと、うっ血性心不全の状態になる。

肺の血管からしみ出して肺にたまれば肺水腫、胸腔(肺の外側の空間)にたまれば胸水貯留となる。

ネコでは、肺水腫だけでなく胸水がたまることもよくみられるのが特徴である。

肺水腫でも胸水でも、肺がうまくふくらめなくなり、呼吸が速く苦しくなる。

ネコがイヌのように咳をすることは少なく、安静時の呼吸が速い・お腹を使って苦しそうに呼吸する・口を開けて呼吸する(開口呼吸)といったサインが、危険な状態を示す。

胸水がたまっている場合は、胸に針を刺して水を抜く胸腔穿刺で呼吸を楽にすることがある。

6合併症② 動脈血栓塞栓症(ATE)

要点左心房が拡大すると中で血液がよどみ、血栓ができやすくなる。血栓が流れ出て全身の細い動脈に詰まるのが動脈血栓塞栓症(ATE)。多くは後肢へ向かう大動脈の分かれ目に詰まり(鞍状血栓)、突然の後肢麻痺・冷感・肉球の白化・激しい痛みを起こす。腎臓の動脈に詰まれば急性腎不全になることも。致死率の高い緊急事態。

心筋症が進んで左心房が拡大すると、広がった左心房の中で血液の流れがよどみ、固まって血栓ができやすくなる。

この血栓が左心房から流れ出し、全身に運ばれて細い動脈に詰まるのが動脈血栓塞栓症(ATE)である。

最も多いのは、後肢へ向かう大動脈の分かれ目(後大動脈の分岐部)に詰まるもので、形から鞍状血栓(サドル血栓)とよばれる。

この場合、後肢への血流が突然途絶え、後肢が急に麻痺して動かせなくなり、足先が冷たくなり、肉球が白っぽくなって、強い痛みで激しく鳴くなどの症状を示す。

血栓が腎臓の動脈に詰まれば腎臓への血流が途絶えて急性腎不全を起こすなど、詰まった場所によってさまざまな臓器障害を起こす。

ATEは突然発症し、強い痛みをともなう致死率の高い緊急事態であり、心筋症のネコでは突然死の原因にもなる。

芋づる表

心筋症の型と合併症

要点肥大型・拘束型は広がりにくい(拡張障害)、拡張型は縮む力が弱い(収縮障害)。猫は肥大型、大型犬は拡張型が多い。

隠して覚える(?を押すとめくれる)
空欄の表を印刷(紙に書く用)

心筋症の3つの型

肥大型心筋症(HCM)
左心室の壁が厚くなり、内腔が狭くなる 拡張障害(広がりにくい)
猫で最も多い心臓病 遺伝が関わる。7〜8割は無症状で経過することも
拘束型心筋症(RCM)
心筋・心内膜に硬い組織ができる 拡張障害。収縮は一見正常
猫 原因ははっきりしないことが多い
拡張型心筋症(DCM)
心筋が薄く伸び、内腔が広がる 収縮障害(ポンプ力が落ちる)
大型犬(ドーベルマン・ボクサー・グレートデンなど) 猫はタウリン不足が原因だった(今は減った)

合併症

うっ血性心不全
血液がうっ滞し、肺に肺水腫・胸腔に胸水
猫は肺水腫だけでなく胸水もよく起こす 猫は咳が少ない。呼吸が速い・開口呼吸は危険
動脈血栓塞栓症(ATE)
拡大した左心房の血栓が動脈に詰まる 後大動脈の分岐部に詰まる=鞍状血栓
心筋症の猫。致死率の高い緊急事態 急な後肢麻痺・冷たい・肉球が白い・激しい痛み
理解できたら腕試し
確認問題 9問をとく