学習理論とトレーニング(条件づけ・強化と罰)

動物のトレーニングの土台になる学習のしくみを学ぶ。1つの刺激に慣れる・敏感になる非連合学習(馴化・鋭敏化・脱馴化)、こわがる刺激に少しずつ慣らす脱感作、ベルの音で唾液が出るような古典的条件づけ(パブロフ)、自発的な行動を増減させるオペラント条件づけ(スキナー)、そして「行動を増やす強化/減らす罰」と「刺激を与える正/取り去る負」を組み合わせた4分類(正の強化・負の強化・正の罰・負の罰)を、文章と確認問題で理解する。しつけは正の強化を基本にすると効果的。

1非連合学習 ― 馴化と鋭敏化

1つの刺激をくり返し受けるうちに反応が変わる、もっとも単純な学習を非連合学習という。有害でない刺激にくり返しさらされて、生まれつきの反応がしだいに小さくなるのが馴化(順化)。逆に、強い刺激にくり返しさらされて反応が大きくなる(敏感になる)のが鋭敏化(感作)。

1つの刺激をくり返し受ける非連合学習では、有害でない弱い刺激で反応が小さくなる馴化と、強い・不快な刺激で反応が大きくなる鋭敏化という反対向きの変化に分かれる。

学習のなかでもっとも単純なのが、1つの刺激をくり返し受けることで反応が変化する非連合学習である。

非連合学習には、反応が小さくなる方向の「馴化」と、大きくなる方向の「鋭敏化」がある。

馴化(じゅんか/順化)は、その刺激が動物にとって有害なものでなければ、くり返しさらされるうちに、刺激に対する生まれつきの反応(生得的反応)がしだいに小さくなっていく現象である。

たとえば、最初は物音にビクッとしていた子イヌが、生活音にくり返しさらされるうちに気にしなくなるのが馴化である。

一般に弱い刺激ほど馴化しやすい。

鋭敏化(えいびんか/感作)は、強い刺激にくり返しさらされることで、刺激に対する生得的反応がかえって増大していく現象で、馴化とは逆向きの変化である。

強い・不快な刺激ほど鋭敏化が起こりやすく、これまで反応しなかった弱い刺激にまで反応するようになることもある。

2脱馴化と脱感作

いったん馴化して反応しなくなったあとに、別の新しい刺激が加わると、もとの刺激への反応が再び戻ること(回復すること)を脱馴化(脱順化)という。一方、脱感作は、動物がこわがって反応してしまう刺激に、弱いレベルから少しずつ慣らして反応を減らしていくトレーニング技法(系統的脱感作)である。

馴化が成立して反応しなくなったあとでも、その反応が再びよみがえることがある。

脱馴化(だつじゅんか/脱順化)とは、馴化が起きていた刺激とは別の新しい刺激が加わったあとに、もとの刺激に対する反応が再び起こる(回復する)現象である。

たとえば、ある生活音に馴化していた動物に、突然まったく別の大きな音が加わると、もとの生活音にもまたビクッと反応するようになる、といったことが起こる。

脱感作(だつかんさく)は、トレーニングの技法のひとつで、動物がふだんこわがって過剰に反応してしまう刺激に対して、反応しないようにしていくことを目的とする。

やり方は、その刺激を、動物が反応しないくらいのごく弱いレベルから提示し、慣れてきたら少しずつレベルを上げていくというもので、系統的脱感作とよばれる。

実際には、こわい刺激を好ましいもの(おやつなど)と結びつけて印象を変える拮抗条件づけと組み合わせて行うことが多い。

馴化・鋭敏化・脱馴化が『自然に起こる学習』であるのに対し、脱感作は『こわがりを治すために意図的に行うトレーニング』である点を区別したい。

3古典的条件づけ(パブロフ)

古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)は、もともと反応を引き起こさない中性刺激(ベルの音)を、反応を引き起こす刺激(食べ物)とくり返し対にすることで、中性刺激が条件刺激となり、食べ物のときと同じような反応(唾液)を引き起こすようになる学習。ロシアのパブロフが研究(1903年ごろ)。ベルの音や、梅干しを見ただけで唾液が出るのが例。

古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ、パブロフ型条件づけ)は、刺激どうしが結びつくことで起こる学習である。

もともと食べ物(無条件刺激)は、何も学習しなくても唾液(無条件反応)を引き起こす。

これに対し、ベルの音は、はじめは唾液とは関係のない中性刺激である。

ベルの音を鳴らしてから食べ物を与えることをくり返すと、やがてベルの音だけで唾液が出るようになる。

このとき、ベルの音は『条件刺激』に置き換わり、それによって出る唾液は『条件反応』とよばれる。

条件反応は、もとの無条件反応(食べ物による唾液)とよく似た反応である。

この研究は、ロシアの生理学者パブロフがイヌを使って行ったもので(1903年ごろ)、『パブロフの犬』として有名である。

ヒトでも、梅干しを見ただけで唾液が出るのは、梅干しのすっぱさ(唾液を出す刺激)と見た目がくり返し結びついた古典的条件づけの例である。

古典的条件づけで結びつくのは、唾液やこわがりのように、自分の意思とは関係なく自動的に起こる反応である。

4オペラント条件づけ(スキナー)

オペラント条件づけ(道具的条件づけ)は、特別な誘発刺激がなくても自発的に行う行動が、その結果(よいこと・いやなこと)によって増えたり減ったりする学習。アメリカのスキナーが研究(1938年)。『おすわりしたらおやつ→おすわりが増える』のように、行動のあとの結果しだいで、自発的な行動を増やしたり減らしたりできる。

オペラント条件づけ(道具的条件づけ、スキナー型条件づけ)は、動物が自発的に行う行動についての学習である。

古典的条件づけが『刺激→自動的な反応』の結びつきだったのに対し、オペラント条件づけでは、特別な誘発刺激がなくても動物が自分から行う行動(オペラント行動)が対象になる。

その自発的な行動のあとに、どんな結果(良いこと・いやなこと)が起こるかによって、その行動が増えたり減ったりする。

たとえば、イヌが自分からおすわりをしたときにおやつをあげると、おすわりという行動が増える。

この理論は、アメリカの心理学者スキナーが研究したもので(1938年)、レバーを押すと餌が出る装置(スキナー箱)を使った実験で知られる。

オペラント条件づけを使うと、結果のあたえ方によって、望ましい行動を増やしたり、望ましくない行動を減らしたりすることができる。

イヌやネコのしつけ・トレーニングの多くは、このオペラント条件づけにもとづいている。

5強化と罰・正と負(4分類)

オペラント条件づけでは、行動を増やすことを強化、行動を減らすことを罰という。さらに、刺激を与えることを正、刺激を取り去ることを負という。これを組み合わせると、正の強化(良い刺激を与えて増やす)・負の強化(いやな刺激を取り去って増やす)・正の罰(いやな刺激を与えて減らす)・負の罰(良い刺激を取り去って減らす)の4つになる。

オペラント条件づけは、行動がどうなるか(増える/減る)と、刺激をどうするか(与える/取り去る)の組み合わせで整理できる。

まず、ある行動を増やすはたらきを『強化』、ある行動を減らすはたらきを『罰』という。

次に、刺激を与えることを『正(プラス)』、刺激を取り去ることを『負(マイナス)』という。

この2つを組み合わせると、4つのパターンになる。

正の強化は、行動の直後に良い刺激(おやつ・ほめる)を与えて、その行動を増やす(例:おすわりできたらおやつ→おすわりが増える)。

負の強化は、行動の直後にいやな刺激を取り去って、その行動を増やす(例:引っぱられて苦しい首輪が、横につくとゆるむ→横につくが増える)。

正の罰は、行動の直後にいやな刺激を与えて、その行動を減らす(例:いたずらしたら大きな音→いたずらが減る)。

負の罰は、行動の直後に良い刺激を取り去って、その行動を減らす(例:飛びついたら遊びをやめる→飛びつきが減る)。

『正・負=刺激を足すか引くか』『強化・罰=行動が増えるか減るか』と覚えると整理しやすい。

6しつけ・トレーニングへの応用

しつけは、罰よりも『できたら褒める』正の強化を基本にするのが効果的で、動物との信頼関係も保ちやすい。罰(特に正の罰)は、恐怖や攻撃性、人への不信を生むリスクがあり扱いが難しい。こわがりには、脱感作と拮抗条件づけで少しずつ慣らす。動物看護師は、こうした学習の原理にもとづく助言で飼い主を支える。

学習の原理は、日々のしつけや問題行動の対応に応用される。

基本は、望ましい行動が出たらすぐに褒美を与えて増やす『正の強化』である。

罰よりも効果的で、動物との信頼関係をこわしにくい。

正の罰(いやな刺激を与えて行動を減らす)は、一見即効性があるように見えても、恐怖や不安、攻撃性、人や手に対する不信を生むことがあり、タイミングも難しいため、安易に使うべきではない。

雷や来客、車などをこわがる場合には、脱感作(こわくないごく弱いレベルから少しずつ慣らす)と拮抗条件づけ(こわい刺激をおやつなど良いものと結びつける)を組み合わせて、時間をかけて反応をやわらげていく。

また、望ましくない行動に対しては、その行動を強化してしまっているもの(注目・おやつなど)に気づき、それを取り去る(負の罰)などの工夫をする。

動物看護師は、こうした学習理論にもとづいて、飼い主に『叱るより褒める』『こわがりは少しずつ慣らす』といった具体的な助言を行い、人と動物のより良い関係づくりを支える役割をもつ。

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